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第29話(マイク)

スティーブはゆっくりと話し始めた。 「僕はとある実験で産まれた人造人間だ」 24年前、試験管の中には小さな胎児が息づいていた。 元々は旧ソビエト時代に極秘で研究されていた人造人間計画。 筋肉から骨や臓器まで人間のありとあらゆる器官を強化した最強兵士を作り出す研究だった。 主任研究者だった天才遺伝子学者のトレース•マイヤーズ博士は24年前、ついに人造人間計画に成功したのだ。 危険な研究である人造人間計画を監視していたアメリカ政府はWIAにマイヤーズ博士の逮捕と研究資料の廃棄を依頼していた。 その時、試験管の中に居たのがスティーブだ。 「信じられない、、、」 初っ端から予想以上の展開にマイクの口が開いた。 間抜けな顔してるだろうな、、、 こんな話、信じられないが、マイクは実際にスティーブの並外れた身体能力を目撃していた。 「元々、僕は廃棄されるはずだった。でも、その時のWIAのエージェントが殺さずに育ててくれたんだ。エージェント•ルビー。僕の祖母だ」 ルビーは50代でWIAの長官に上り詰めた逞しい女性だった。 当時はまだ作戦の指揮官だったルビーは試験管の中に居た小さな命を殺させる命令が出せなかったのだ。 規則違反だと知りながら、その後も極秘でスティーブを育て17歳まで一緒に暮らしていた。 「僕はずっとルビーを祖母だと思っていたし、両親は事故で死んだと思っていた」 たまに見せる少し寂しそうな表情だ。 思わずマイクはスティーブを胸元へ引き寄せ抱きしめた。 「僕に家族はいない。親も兄弟も。 17歳の夏休みだったと思う。完全武装したWIAのエージェントが家を包囲した。ルビーは捕まり、僕はワシントン本部に連行された。 しばらくは人間不信だったよ。ルビーはなぜ僕を殺さず育てたのか。彼女から受けた愛情は、本当は違う感情だったのか?」 スティーブは小さく息を吐く。 「あっけない程簡単に壊れた関係に、長いこと愛が分からないままだった」 スティーブは大人しくマイクの胸に顔を埋めたまま話した。 スティーブがどんな顔で話しているのかは声色からは分からない。 「今は君とこうして愛し合って、すごく心が満たされているんだ。 それで気づいたよ。ルビーと過ごした17年も僕はずっと心が満たされていた。 彼女は僕を大切に育ててくれていた」 マイクはスティーブを抱きしめる腕に力を込めた。 「うん。大切に育てて無ければ、君は今ここに居ない」 マイクは心の底から感謝した。 彼の優しさや強さ、潔さ、誠実さ。 全てルビーや周りの人達からの愛情が今のスティーブを作ったのだろう。 スティーブを廃棄しないでくれて、ありがとう。 スティーブを大切に育ててくれて、ありがとう。

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