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第35話(マイク)

朝、目が覚めるとスティーブは居なかった。 リビングのミニテーブルの上に書き置きがあった。 行ってきます の一言だけの書き置き。 ここ数日が夢みたいで、この書き置きがスティーブがさっきまで居た証拠のように感じた。 朝の日課のハーブティーを煎れようとキッチンへ向かっていると急に腰に力が入らなくなって壁につかまる。 連日の慣れないセックスが足腰にきている。 正直、自分が男性と付き合うとは思わなかった。 それに男性とセックスする事で、自分の何かが変わってしまうんじゃないか? 自分が女性にでもなるんじゃないかという、捉え所の無い不安もあった。 なんとかキッチンに辿り着き、ハーブティーを煎れながら自分の内面と向き合う。 スティーブと付き合って、何か変わったのか? 「俺は俺」 何も変わらない。 今日もいつもの時間に花屋を開ける。 今日もいつもの日常だ。 平凡な俺の平凡な日常。 「いらっしゃい」 入り口のドアが開く。 最近の常連ケイラだ。 肩までの金髪に茶色い瞳の30代美人。近くに住んでて、週3回は来店してくれる。 「こんにちはー!今日もミニブーケお願い」 「カラーは?」 「ピンク系かな」 「ok」 「マイク何かいい事あった?」 「え?」 「今日、何だか楽しそう」 「あー、最近欲しかった植物の種が手に入ったからかな?」 「なんだ、色っぽい話じゃないのね!」 「色っぽい話はご無沙汰」 スティーブとの事は他言無用だ。気を付けないと。 それに、種の話は本当。希少な種を、コネやツテを駆使してマレーシアの政府機関の友人から送ってもらったばかりだ。 「こんな感じでいい?」 ピンクのミニブーケを渡す。 「ありがとう!」 代金を受け取るために手を出すと、そのまま手首を掴まれた。 「え?」 マイクは驚いてケイラに手首を掴まれたまま固まる。 「裏口は?」 ケイラからはいつもの明るい笑顔が消えていた。 「ここから逃げないとまずい。正面入り口から武装した男2人が来る」 ケイラは入り口に背を向けたまま、前にある花のショーケースに反射した入り口を見ている。 マイクはケイラ越しに、大男2人が銃を持って近づいてくるのが見えた。 「嘘だろ」 平凡な俺の平凡な日常?

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