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第36話(スティーブ)
WIAからの呼び出しは、昨晩のマイクとの食事中だった。
通信機のディスプレイに「招集/ワシントンD.C.」とだけ表示されていた。
思ったよりも早かった。
福祉施設で捕らえたセシリオ•カルバーリョから何か聞き出せたのか。
何にせよ事態に進展があったのだろう。
メキシコの麻薬カルテルであるハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオンの幹部セシリオが、なぜわざわざアメリカまで来て子供を狙っていたのか。
それに厳重警備のWIAから資料や武器が盗み出された。
脅されていたとはいえワン分析官が1人で全て持ち出すのは難しい。
あの武器は、まだ試作品で機密情報レベル5だ。ワン分析官ではアクセス出来ない。
もっと上のエージェントが絡んでいる可能性が高い。
ワン分析官は、死ぬ直前にWIA内に裏切り者が居ると言っていた。
嫌な予感がしている。
スティーブはマイクの眠るベッドを抜け出し服を着た。
書き置きを残してから、最後にマイクの寝顔を見たくて寝室へ戻る。
「愛してる」
そう呟いて、額にキスをする。
後は振り返らずに家を出た。
マイクの家から30分程のピックアップポイントへ車を走らせる。
テターボロ空港の北にある格納庫だ。
スティーブが到着すると、既にジェットが待機していた。
エージェント•ハワードが外に迎えに出ている。
「エージェント•ワイルド、来ないかと思いました」
澄ました顔のやり手ベテラン捜査官だ。
「5分遅刻しただけだろ?」
「時間に正確なあなたを遅刻させるとは、マイケル•バーンズ氏は要注意人物のようですね」
「すまなかったよ、嫌味はそれぐらいにしてくれ」
「まあ、今日はこのぐらいにしておきます」
2人はジェットに乗り込みワシントン本部へと向かった。
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