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知りたくなかったって話
「……ちゃんと寝てる?お前。」
「あぁ?」
ドスがきいた返事で凌を睨んだ。顔色が悪いんだろうな。それもそうだろう、ここ最近悩みっぱなしで眠れない。明け方帰宅して横になって寝れなくて昼過ぎに身体起こして飯食う元気もねぇから、10秒チャージして同伴して出勤。これがどれくらい続いてるのか解らない。
眠い。でも寝れない。
「ひっでぇ顔よ?」
心配そうな面して目尻を親指の腹で撫でてきた凌の手をパシッと割りかし強めに払い除けた。
悩んでんのは誰のせいだと思ってやがる、クソッタレが。ちょっと前に告白まがいの事してきやがって。それからちょいちょい甘い空気醸し出して、あからさま過ぎる態度で俺を触ったり見たりしてくるからもう疲れた。
止めてくれる?そういう……………なんだ。そういうやつ。
「…触んな。」
眉間に皺を寄せて冷たく言い放つ。
「……ま、今日休みだし。帰ったら寝ろよ。」
苦笑いして書類に目を落とす凌。
その人の貴っっっっっ重ーーーーーーーな休みにバースデー打ち合わせって呼び出したのテメェだろが。
腹の中で舌打ちして悪態をつく。
7/14 アズ生誕祭
書類に目を落として溜息を吐いた。めでたくもねぇし多忙しか目に見えない。
「HPに載せる撮影とかするから体調整えておけよ。」
「…解ったよ。」
出来ればシンプルなやつにして欲しい。昨年は派手に着飾ったりゴテゴテなHPにしたりされた。全くもって趣味じゃなかったから最悪だった。
半分ぼんやりして打ち合わせを聞いていた。取り敢えず、あと1ヶ月後までは多忙続きってわけだ。
やる事を纏めると
自分の姫達にバースデー宣伝、集客
VIP確保
HP用撮影
新しい名刺の撮影
店内バースデーイメージ装飾準備
おぉい、寝れんのかよコレぇ…。項垂れて目頭を指で押さえた。
「…あと…」
まだあんのかよ…眉間に皺を寄せて凌を睨んだ。
何か言いたそうに口を開けた瞬間
─コンコン ガチャ─
「お疲れ様です、オーナー……あ、あずさん!」
出勤してきたレオが顔を出した。俺を見た瞬間、パアッと顔を輝かせた。あーあー、今日も可愛いライオンだな。
「………おつ、レオ。」
急に真顔になって塩対応になった凌に怠くて溜息を吐いた。俺、今日は溜息吐いてばっかだな、もう。
「はい、お疲れ様です。シフトです。」
そんな塩対応な凌にニカッと爽やかに笑顔を見せてシフトを出すレオ。レオのが大人だな。感心した。足を組んで頬杖を付いて二人のやり取りを眺める事にした。
「ん、はいはい。」
あからさま過ぎんだろが、その塩対応。怠そうな態度でレオからシフトを受け取るとチェックし始めた。
ニコニコしながらレオが此方を振り向く。
かと思えば、急に真顔になった。
「……なぁんだよ…」
少し気まずくて顔をしかめる。が、途端にガッ!と両手で顔を掴まれて目を見開く。ビックリした、なんだ。
「んな、に」
「寝てます?」
本日二回目の質問。凌も原因だが、レオも中々に原因だ。そんなつもりは無いのかもしれないし、そうなのかもしれない態度を取ってきたり、そんな感じの視線を送ってきたりする。
なんて言えばいいのか分からんけど。
凌と違って、それに胸が苦しくなるのに困る。
調子が出なくなるんだよな、まじで。
「離せ、よ。」
パッと軽く払い除けて俯く。まともに顔が見れない。
「あ、ごめんなさい。いやでも、あずさん顔色が良くないです。」
平謝りしてレオが心配そうな顔で見てきた。心配かけたいわけじゃないけど、寝れないんだから仕方ないだろ。
「………帰ったら寝る。」
「絶対ですよ?」
「うるせぇな、寝るってんだわ。」
念押しして聞いてくるレオに若干苛ついて冷たく言ってしまった。ちょっとしょぼけた顔のレオに胸が傷んだ。
「打ち合わせ終わりだろ?オーナー。」
書類をまとめて手ににすると凌に話しかける。凌も心配そうな顔で俺を見ていた。だから、こっち見るなよ。そんな目で。
「あぁ、うん。梓、ちゃんと…」
「わかったって、寝る……」
念押しして言ってきた凌を遮って立ち上がったが、目の前が歪んだ。視界がぐるぐる回ってどっちが地面か解らなくなった。あ、やばいな?これ。痛いやつだ。床に倒れ込むのが予想ついた。
「梓!!」
暗くなる意識の中で俺を呼んだのは誰だったんだろう。凄く暖かい。嗅ぎなれたホワイトムスクの香りがして意識を手放した。
目を覚ましたら、見慣れない天井だった。
「……………どこ…。」
呟いて身体を起こす。見慣れない部屋だった。でも知ってる匂いでいっぱいだった。
─ガチャ
ドアが開いて見知った人間が顔を出して目を見開く。
「あ、起きました?あずさん。」
「………れお……?」
ちょっと待てよ?なんだ記憶が途切れてんぞ。困惑してぽかんとした顔でレオを眺めてると、後ろ手で扉を閉めて、ベッド近くに座って困ったように笑顔を見せて手に持っていたペットボトルのキャップを開けて経緯を話し出すレオ。
「あの後、あずさん倒れたんですよ。」
あぁ、やっぱりか。にしてはどこも痛くない。あとなんでレオん家なんだ。怪訝そうに見たらまた困ったように俺を見た。
「あは、いや病院って思ったんですが…休診日だったり近くが閉まってて。あと、あずさん家知らなくて、ごめんなさい。俺ん家です。」
「あぁ………いや、悪い。迷惑かけた。」
経緯が解って少し安心した。凌ん家じゃなくて良かった気がする。
ん?そういや…
「……凌は?」
あの時いたし、まずレオん家ってなったら止めそう。
そう思いながら聞いてみたら、レオの雰囲気が変わった。なんだ…………ちょっと怖いなレオくん?
「…オーナー…ですよね?」
その質問に固まる。変なこと聞く…そう思ったが、名前で読んだからだと気付いた。
「あぁ、うん……。」
「…オーナーはまだ仕事があるらしくて。俺ですいません。」
「え、いや別に…。」
苦笑してそう言ったけど、なんも別に謝らんでも…。気まずくてそれ以上、何も言えなかった。
黙ってるとペットボトルを差し出された。
「…どうぞ。開けときました。」
「あ?あぁ、ありがとう…。」
受け取ろうとしたら、レオと目が合った。真っ直ぐ俺を見つめてくる。胸がギュウッとなった。痛い。
「あずさん、オーナーと付き合ってるんですか?」
なに?
「………はい?」
なんだ、デジャヴな感じだなコレ。
まぁ、いいや。それより今、すんごいあり得ない言葉が聞こえた。なんつった?
とんでもなく不機嫌な顔でレオを見るとビクッと一瞬、身体を跳ねさせてオロオロしながら言う。
「えっえっごっ、ごめんなさい!」
「何が如何なってそうなった?お前の頭は花畑か?」
「酷い!いや、だって名前で……。」
「はー………俺とアイツは10年付き合いがあるんだよ。だから名前で呼び合うくらい普通なの。」
「…へ、あ……なるほど。それはまた……すいません。」
疲れる。深い溜息を吐いて貰った水を飲んだ。冷たい水が身体を満たして少し落ち着いた。チラッと横目でレオを見れば、またしょぼけた顔してたから、頭をクシャッと撫でてやった。
「変な勘違いすんなよな。」
「あは、すいません。」
へにゃっと笑う姿を見て、可愛いななんて。思ったりした。何だ、男相手に可愛いとか。
ふと壁にある時計を見てギョッとした。
0時半過ぎ。おいちょっと待てよ、嘘だろ。
「……れおくん。」
「あ、はい。」
「俺は何時に此処に来た?」
「えー…っと、20時前くらいですかね。」
「………………お前、今日出勤…」
「……あは?」
爽やかに笑われた。まじかよ、ツートップ揃って店不在。てか、まさかの休ませるとか。何してんの俺は。罪悪感と失態で両手で顔を覆って項垂れた。
「…悪い、れお。」
「いえいえ!オーナーからも頼まれてますから。あずさん、ゆっくり休めました?」
ニッコリ笑って俺を気遣う姿に胸が痛む。何やってんだ、最悪じゃん。しかもこの時間とか電車ねぇじゃん。いや、レオん家どのへんか知らんけど。
「あずさん、今日はもう泊まってってくださいよ。」
ベッドに顎を乗せて此方を見てくるレオ。なんだそれ。
可愛…………いや違う。可愛いとか違う。
何考えてんだ俺は。
「…帰る。」
「いや、電車無いですよ。」
「……………お前、店まで何駅よ。」
「4駅ですね。」
俺ん家は店から徒歩圏内だ。て事は俺ん家まで4駅。うぅん、微妙に遠い………。
しかしコイツの家は確か実家で、高校生の兄妹いるとか言ってなかったか?
申し訳無さしかなくてレオを見た。ベッドに顎を乗せたままのレオと目が合う。ニコーっと笑って俺を見てきた。あぁ、何か…………察したようで何より。
「大丈夫ですよ。寧ろ倒れたあずさんをこのまま帰すのはちょっと。」
あぁ、なるほど。そうか…。まぁ……そうだな。
「…じゃあ…悪い。世話になる。」
「はい。」
嬉しそうに目を細めて微笑む姿にやっぱり可愛いとか思ったから、どうか錯覚であって欲しいと虚しく願った。
それからレオがろくに飯も食ってなかった俺に玉子粥作ってくれて、風呂とレオの服まで借りてベッドも使わして貰った。なんだ。いたれりつくせりだな。
レオの飯、まぁ玉子粥だけど。絶妙な味で凄い美味かった。普段から飯作ってるって言ってたしな。
あと、腹立つのが借りた服。半袖だからまぁ、まだマシだけどめっちゃデカイ。いやほんとに。だいぶデカイ。腹立つ。同じ男なのにな…。貧相な自分の身体に苛立つ。
床に布団を敷いて先に眠るレオの枕元に座り、髪を撫でた。疲れただろうな。
可愛いとか、思ったのは何でなんだろう。
側にいると凌とは違う、落ち着く気持ちになるのは何なんだろう。
暖かいんだ、お前の隣。懐かしい、暖かさ。
あぁ、そうか。
「……なぁ、お前……俺に何教えてくれちゃってんだよ…」
髪を撫でながら泣きそうになるのを堪えて呟いた。
知りたくなかった。
1番、知りたくなかったよ、この感情。
好きだよ、澪於。
臆病者がライオンに恋した。
こんな怖い感情、知りたくなかった。
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