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わるい竜2

 ガタガタと震えるニンゲンを見た竜は彼に向かって「寒いのか?」と尋ねましたが、返事はありません。  眉をヘニョッと下げて、泣きそうな顔をしながら竜を見つめるばかりです。 「困ったな……」  森の動物たちは竜の言葉を理解しているのに、なぜかニンゲンだけは通じないようです。 「おい、(ふくろう)(おきな)はいないか」  竜は大声で翁と渾名される梟を呼びました。翁はこの森一番の博識で、彼ならニンゲンのことも詳しいのでは? と考えたからです。  一声吠えると、程なくして森の奥から一羽の梟が飛んできました。 「(ぬし)さま、お呼びでございますか」 「森の奥にこのニンゲンが捨てられていたんだが、言葉が通じないようなのだ。お前、話すことはできるか?」 「私も主さま同様、ニンゲンと話すことはできません」 「お前でも話せないのか」 「ニンゲンは我ら獣と違い、独自の進化を遂げましたゆえ、言葉の形態が全く異なるのでございますよ。ただ以前ニンゲンに飼われていた鸚鵡(おうむ)ならば、ニンゲンの生態を知っておりますし、言葉も多少交わせたはず」 「その鸚鵡とやらはどこにいる」 「すぐに呼んでまいりましょう」  梟は近くにいた雀に鸚鵡を連れてくるよう申し伝えると、竜に向き直りました。 「ところでこのニンゲンはなぜズブ濡れなのです?」 「あまりに臭うので、川で洗った」  エヘンと胸を張って答える竜。彼のあの行為はなんと、振り洗いだったようです。 「おかげで全く臭わないだろう。そればかりか芳香が漂っている。ニンゲンとはこんないい匂いのする生き物なのだな」 「芳香……はて、(じい)にはそのような香りは感じられませんが」 「このように胸が沸くほどの香りがわからないと申すか?」 「梟に嗅覚を求めんでくだされ……」  翁がガックリと頭を下げたとき。  くちんっ。  竜の手の中で、ニンゲンが小さなくしゃみをしました。全身が先ほどよりもガタガタと大きく震えています。 「もしやこのニンゲン、寒さに震えているのでは?」 「やはりか」 「ニンゲンは獣とは違い、体毛が(すくの)うございますからな。冷たい川に入ったとなれば、凍えるのも道理かと」 「凍えているのか! それはいかん、早く温めてやらねば。して、どうすればいい?」 「はて……」  一匹と一羽が首を傾げたとき、雀に先導された鸚鵡がやって来ました。 「翁さま、オレっちをお呼びで?」 「お前を呼んだのはほかでもない。ニンゲンのことをいろいろ教えてもらいたくてな」 「なんでこんなところにニンゲンがっ!?」 「森の入り口に捨てられておったらしい」 「捨て子ですか……あぁ、可哀想に。震えているじゃないですか」 「どうやら寒いらしい。どうすれば温めることができる?」 「えぇっとたしか、飼い主が庭の池に落ちたとき、濡れた服を脱いで新しい服に着替えてましたね。濡れたままだと体が冷えて病気になるとかなんとか?」  ですが森に新しい服などありません。  どうしたものか……新たな難題が重くのしかかります。 「あ、あと寒い気節になると、毛皮を着込んでましたね」 「毛皮か」  それならなんとかなる!  ようやく見つかった解決の糸口に喜んだ竜は、森中に響き渡るほどの咆哮をあげました。

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