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ニンゲン3

 グオオオォォオオォォォォォーーーン!  雷よりもさらに大きな轟音に、浮浪者は目をギュッと瞑りました。  なぜ竜が突然吠えたのかはわかりませんが、何かよくないことが起きそうな予感に、ますます体が震えます。  そんな浮浪者を竜はギロリと睨み付けると、鋭い爪先を彼の体に押し当てました。  竜が少しでも力を入れれば、浮浪者の体はあっという間に切り裂かれてしまうことでしょう。 ――今度こそ殺されるっ!!  そう思った次の瞬間。  ピーーーーーッ。  竜は器用に浮浪者の衣服だけを切り裂いたのです。  今まで彼を拘束していた太い縄も、竜にかかれば紙も同然。  あっという間にフツリと切れて、その拍子に浮浪者の体が地面にペシャリと落ちました。 ――いてててて……。  ノロノロと起き上がって体を見てみると、落ちたことが原因でできた擦り傷以外、どこもなんともありません。  あれだけ鋭い爪なのに、浮浪者の体には切り跡一つ付いていないのです。  不思議に思って竜を見上げると、またもやパチリと目が合いました。  浮浪者をジッと見つめる竜。  その眼差しはなんだか浮浪者を心配しているようにも見えて、彼は首を傾げました。  竜は再び爪を伸ばし、服を引っ張ります。  次第にただの布きれと化していく衣服。 ――もしかして、これを脱げってことだべか。  浮浪者は恐るおそる、未だ体に張り付いている布と猿轡を全て取り払うことにしました。  そして生まれたままの姿で竜を見遣ると、竜はウンウンと言わんばかりに何度も首を振っているではありませんか。  どうやら浮浪者の読みは当たったようです。  竜の機嫌がよくなり安堵したものの、素っ裸ではどうにも決まりが悪すぎます。  浮浪者は竜に背を向け、地面に散らばった布の切れ端で、ソッと股間を隠しました。 ――それにしても不思議だなぁ。  竜が鳥たちと話した内容がわからない浮浪者は、なぜ自分が服を切り裂かれたのか全く理解できません。  もしかして服を着たままだと食べづらいから?……そんなことを考えていたとき。  近くの茂みがガサガサと揺れ、大きな熊が現れたのです。 「――――――――っっっ!!」  突然現れた猛獣に、浮浪者は声なき悲鳴を上げました。  竜が熊に向かってグゥガァと語りかけると、熊はコックリ頷いて、浮浪者に向かってノッシノッシと近付いてきました。 「あわわわわ……」  腰を抜かした浮浪者は逃げることもできず、その場にしゃがみ込むばかり。  ついに熊は浮浪者の前に立ちはだかります。  そして両手を大きく挙げて、浮浪者に向かって振り下ろしました。

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