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わるい竜3
竜の目の前で、熊がニンゲンを抱き寄せます。
「ふぇぇ?」
目を白黒させながら驚くニンゲン。自分の身に起きたことが理解できていないようです。
竜はその様子を、ウンウンと頷きながら眺めました。
――寒ければ、毛皮を着ればいい。
毛皮ならこの森にたくさんある。ニンゲンをスッポリ覆えるような大きな毛皮も存分に……と言うことで、竜は熊を呼んだのでした。
突然呼ばれたうえにニンゲンを抱いて寝ろと言われた熊は少しばかり妙な顔をしましたが、竜の言うことには逆らえません。
何しろ竜は、この森の主 なのです。
森一番の強さを誇る熊だって、竜にかかれば赤子の手を捻るも同然。あっという間に鋭い爪で切り裂かれ、頭からバリバリと食われてしまうことでしょう。
だから熊はニンゲンを胸に抱くと、竜に言われたとおりその場にゴロリと横たわりました。
片やニンゲンはというと、なんの抵抗もなく大人しく抱かれています。
これで一安心……と思ったのもつかの間。よく見ると、未だに体が震えているではありませんか。
――まだ寒いのか。
よく見ると熊の腕 に抱 かれた上半身は温かそうですが、むき出しになったままの下半身は依然冷えたまま。ちんぽも小さく縮こまっています。
「おーい、ほかに誰か、このニンゲンを温めてくれるやつはいないか?」
竜の呼びかけで、狼や狸が現れました。
普段は捕食するものとされるものである彼らも、竜の前では同じ立場。
喧嘩することも、狙われることも、ましてや食べたり食べられたりすることなく、竜の指示に従ってニンゲンの尻や足の上にどんどんと乗っかっていきました。
「主さま、肩が寒そうです。アタシたちも温めてあげてもいいですか?」
兎の姉妹が申し出ます。
竜は勿論これを快諾。二羽の兎がニンゲンの肩にチョコンチョコンと乗っかって、あっという間に獣の毛皮布団が完成したのです。
「おいどうだ。ニンゲンはまだ震えているか?」
「いいえ、もう震えていません。ただ固まったまま全く動きがありませんね」
熊が答えます。
「まさか、死んだんじゃないだろうな」
「ちゃんと息はしていますよ」
「生きてます、大丈夫です」
兎の姉妹の返答に、竜はようやく安堵の息を漏らしました。
日はとうに暮れ、辺りは夕闇に包まれています。
――今日は途中でニンゲン共に起こされてしまったから、まだ少し眠いな。
竜は毛皮布団に近寄ると、ドッかと腰を下ろして自分も寝ることにしました。
目を閉じる瞬間ニンゲンをチロリと見ると、彼は不安げな表情を浮かべています。
竜は尻尾を伸ばして、ニンゲンの頭をゆっくり撫でてやりました。
ニンゲンは一瞬ピャッと驚いた表情を浮かべたものの、やがてゆっくり目を閉じて……すぐに聞こえる静かな寝息。
あどけない寝顔を見せるニンゲンに、思わず笑みが零れます。
なんだか今夜はいい夢が見られそうだな……なんてことを考えながら、竜も眠りについたのでした。
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