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ニンゲン4

 モフモフと温かな……けれど少しばかり獣じみた臭気に、浮浪者の意識が少しずつ上昇していきました。  ポカリと目を開けると、木々の隙間から眩い朝日が差し込んでいます。 「あさ……」  浮浪者は身を起こ……そうとしたのに、体は全く動きません。 「え?」  慌てて周囲を伺うと、自分の身を覆い隠すようにして寝入る、たくさんの動物たちが目に入りました。 「――っ!!」  昨日の出来事が脳裏に蘇り、浮浪者はパニックを起こしました。 ――オラ、このままこの獣たちの朝ご飯になっちまうんだべか。  幸いなことに昨日は食べられずに済みました。  けれど今日も無事でいられるかなんて保証は、どこにもありません。  浮浪者を抱き込んでいる熊に頭を、狼にお腹を、足を狸に食べられてしまうかも……。浮浪者の体は再び恐怖でカタカタと震えだしました。  浮浪者の様子に気付いた動物たちが、一斉に目を覚まします。  耳元で熊がグガァと低く(うな)りました。 「ヒェッ!」  生臭い呼気をもろに浴び、浮浪者の体はもう震えが止まりません。  目を固く(つむ)り、グッと歯を食いしばります。 「うっ、うぇぇ……」  あまりの恐怖にポロポロと涙が零れたそのとき。   「グギュウ」  頭上から熊よりも低い鳴き声が聞こえます。  片目をチラリと開けると、浮浪者を覗き込む竜の姿がありました。  心なしか心配そうな目で自分を見ているような気がして、不思議な気持ちになる浮浪者。  竜と見つめ合っているうちに心は凪いで、いつしか涙も止まっていました。 「ガァ」  竜が声を上げると、浮浪者の体を包み込んでいた動物たちが一斉に離れます。  温かだった体が朝の冷気に晒されて、浮浪者はブルリと身を震わせました。 「グギャ」  竜は何事かを思案するように、小首を傾げます。  そんな竜に向かって、何かを訴えるように吠える獣たち。  みんなで相談をしているようにも思えましたが、残念ながら浮浪者には何を話しているのか全くわかりません。  やがて竜が遠吠えのような声を上げると、どこからともなく梟と美しい鸚鵡が飛んできました。 「ガァグギュル」 「ホーホー」 「キギャークワー」  一頭と二匹が何か言葉を交わしていると、狼がスックと立ち上がって森の奥へと消えていきました。  狼は自分を食べる気がないのかも……浮浪者はホッと息を吐きます。  けれどまだ、脅威は去っていません。  熊がいます。狸もいます。そして竜も……。  いつ食べられてもおかしくない状況に浮浪者が身を固くしていると、先ほど去ったはずの狼が戻ってきたのです。  その口に、大きな袋を咥えています。  一体どこから拾ってきたのでしょうか。  狼は浮浪者の前までやってくると、その袋をドサリと置きました。 「……?」  一体なんだ? と訝しむ浮浪者を、そこにいる全ての動物たちが見つめています。 「もしかして、これを開けろっていうことだべか?」  ポツリと漏らすと、竜がコクリと頷きました。 ――オラの言葉を理解している!?  そのことに驚きながらも、とにかく袋を開けてみることにした浮浪者。  中からは、男物の衣服が一揃え出てきたのでした。

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