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ニンゲン6

 牡鹿がブスブスと音を立てなくなったころ、獣たちが恐るおそる炭に近付いて行きました。  浮浪者は木の後ろから動くことなく、牡鹿だった物体を前に、グギャギャホーホーバウワウグゴォと何やら話している様子の一同を見守ります。  そのとき。 「ウォンッ!」  狼が大きく吠えながら炭の元へと歩み寄ったかと思うと、腹だった部分を前足で掻き始めたのです。  ボロボロと地面にこぼれ落ちる炭の塊。焦げの臭いがいっそう強くなります。  そうやってしばらく掻き掻きしていた狼ですが……。 「ゥオンオン!!」  浮浪者に向かって吠え始めました。 「……?」  浮浪者にはわけがわかりません。  オロオロしていると、竜がノソリと顔を近付けてきて、浮浪者の襟首をパクリと咥えなした。 「うひょおっ!?」  突然の浮遊感。直後感じる、首への圧迫。 「ぐえっ!」  竜によって襟から引っ張り上げられたため、浮浪者の首がキュッと締まったのです。 「ぐっ、ぐるじぃっ!!」  何が起きたかわからず、突然の苦しさに目を白黒させた浮浪者でしたが、その苦しみは長くは続きませんでした。  首の圧迫から開放されたと思ったら、次の瞬間狼の隣にいる自分の気付きました。  どうやら竜は、自分をここまで運んできてくれたようでした。  狼が前足で、浮浪者の足をチョイチョイと引っ掻きます。  何か伝えたいことがあるようです。 「なんだべ……?」  狼の目線の先を見ると、そこには。 「わぁっっ!!」  ほどよく焼けた肉が見えるではありませんか。  突然の高火力で表面が焦げこげになったものの内部までは火が通っておらず、しかも火が消えた後しばらく放置していたおかげでちょうどよい焼き加減に仕上がったのです。  余熱の勝利。  これならば浮浪者でも安心して食べられます。  ソッと手を伸ばし、焦げていない部分の肉を掴む浮浪者。火が消えているとはいえ肉はまだ熱く、触ると火傷しそうほど。  いったん伸ばした手を慌てて引っ込めると、竜が爪の先で肉をこそげ取り、浮浪者に差し出しました。 「竜さま……いいんだべか?」  オズオズと尋ねる浮浪者に、竜はこっくり頷きます。  フウフウと息を吹きかけて熱を冷ました後、浮浪者は竜の爪から肉を受け取りました。  パクリ。  一口囓った瞬間、ジュンワリと肉汁が溢れました。  味付けは一切されていないはずなのに、噛むたびに上質な肉の旨みと甘みが口いっぱいに広がります。  こんな温かで、新鮮で、美味しい食べ物は一体いつ振りでしょう。いつも腐敗寸前のものばかり食べている浮浪者にとって、この鹿肉はまさにご馳走以外の何ものでもありません。  あまりの美味しさに魅了された浮浪者は、周囲に狼や熊がいることをすっかり忘れ、夢中になって食べ続けたのでした。

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