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第一章~星明りの街(した)で/第一節 出逢い~
星々が空にまたたいて、ひそひそと話し始め出した時間――。
聖夜 たちは、家から一番近い川にいた。
体と、着ている服を洗うためだった。
よって、今は全裸である。
家では、母親が部屋に体を拭きに来るだけで、シャワーさえも十二年間浴びさせてもらえなかったので、久しぶりのたくさんの水に興奮している。
歯磨きと大の時だけ鎖を首につけて洗面所とトイレに行かせてもらえたが、小は尿瓶だったので、水に触れる機会はなかなかなかったのだ。
食事もクッキーのような固形物にゼリー状の水分だけだったので、隣の公園で水を飲んだ時は道歩く猫が驚いて逃げ出すくらいの勢いでがぶがぶと飲んだ。
喉を通る、冷たい液体は体中をどこまでも駆けていく。その懐かしい喉越しの心地良さがたまらなかった――。
★
「気持ち良いねえ、兄さん」
「そうですねえ」
川沿いの道にコデマリの姿見を置いて、時々浅瀬にハンカチを浸けて、濡らしたりしぼったりしながら体をゆっくりこすっていると、ふいに腰元へ大きな手が添えられた。
「......!」
「ちゃんと、ペニスも先まで丁寧に洗いましょうね~」
鼻に少しかかるような、独特でやさしく、甘みを帯びているような何とも言えない声が耳元へ飛び込んできた。
「だ、誰!?」
「聖夜から離れなさい、この変質者めが!」
とっさに、架也 が相手の手首を掴んで、投げ飛ばそうとしたが、相手の耐える力の方が強くて、びくともしなかった。
「くっ!」
「残ねーんでした。俺は、そんなに弱いやつじゃないんでね。ちなみに悪い人じゃないからご安心を。ただペニスが大好きな通りすがりのお兄さんなのでご安心を~」
彼は、くすくす笑いながら掴まれた手をそっと払いのけると、再び後ろから手を回してきて架也の局所を揉みしだきながらそう囁いた。――痛くはなく、丁度良い強さで手を動かしてくる。
「あぅ。そ、それを変質者というのです! 聖夜のおちんちんは、私のものです。譲りませんよ」
硬くなりつつあるのを自覚しながら、顔を赤らめつつも応戦しようとして、架也は振り返ろうとしたが、強い力で抱きしめられた挙句、高速で扱かれて一気に昇りつめてしまった。
「どお? 俺の高速ピストンの技術は? まだ、足りない? 変質者呼ばわりした罰だよん~」
と、にやりとしながら、亀頭をこすり上げてくる。
「ほらほら、早く降参しなって。俺の技術なら、『聖夜ちゃんのおちんちん』も安心して任せられるって。ほら、大好きな聖夜ちゃんの前で知らんお兄さんからイカされるだなんて屈辱的でしょう? ほら、『降参』よこせ~」
「――ああん、もうダメえ、出ます、こ、うさー!」
「声が小さい~。もっと大きな声で~」
こすり上げる速度が速まっていく。
「わ、わかりましたっ、降参しますから。もう聖夜の前でやめてくださいっ」
歯痒い思いで口にしたのに、返ってきたのはさらに意地の悪い言葉だった。
「そうなの、じゃあ、本当にここまでにしちゃうねえ」
「え!? あとわずかで射精というところで? そんな中途半端な、あ、でも聖夜以外の誰かでイクわけにはいきません!」
とっさのことに本音を漏らしてしまい、慌てて我に返る架也だったが、
「そんな可愛いこと言う子には、ごほうびあげちゃう~」
と、思い切り強くこすり上げられてしまい、そのはずみでうっかり「はううんっ」と、変な声と共に、空高く精液を飛ばしてしまった。
架也は、うっかりイッてしまった恥ずかしさと悔しさで、半泣き状態になってしまった。
「くやしい......ですう。うわあん、聖夜以外の人で果ててしまいました、ぐすん。ぐすん」
「何この子、可愛すぎなんですけどお」
茶髪で、両サイドを垂らした髪は長く、後ろのしっぽは短めのポニーテールの青年が、によによしながら覗き込んできた。
ズボンの上は白色のロングカーディガンのみの格好をしている。隙間からそっと見えた乳首は、桜のように綺麗な薄桃色をしていた。
「そそ、それ以上、架也兄さんをいじめないで」
聖夜が腕を引いて懇願すると、青年は微笑んで言った。
「や、だよん」
「ええっ!」
「君も、君のお兄さんも、ペニス含めてどっちも可愛いから、俺がお持ち帰りしちゃおうかなあって」
「え!」
――やっぱり、この人、変質者......。
聖夜は、身の危険を色々感じて、慌てて服を着直したが、まだほとんど乾いていなかった。そのため、体にシャツもズボンも張り付いてしまい、乳首の位置も、局所の大きさまでもくっきりわかるほどだった。
そして、それを「やっぱり良い形のペニスだあ」と、にたあと眺めまくる青年の姿を見て、少し立ちくらみが......。
「聖夜君たちさ、家出っぽいけど、お金とか服とか持っているようには見えないんだけど。しかも、二重人格? 街中でその大きな姿見持ってウロウロしたら目立つのもあるけど、傍から見たら、聖夜君一人で話しているように見えるのも目立つだろうし、行き先が特にないようなら、うちに来たら良いんじゃないかなあと。そのステキなペニスちゃんと一緒に、ね?」
――どうしよう。今更だけど、お金のこと、忘れていた......! でもいきなり知らないひとの、しかも変質者のおうちにっていうのはちょっとヤバそう.......。
「って、どさくさにまぎれて、人の大事なおちんちんをさわらないでよっ」
「ふふん。オレのテクニック、良いでしょう? タダでおいしい三食昼寝つきに、ペニス中心のステキなプレイつき。どお? 俺にその形の良い美しいペニスちゃんを毎日触らせてくれるだけで、ずっとペニスちゃんたちと一緒に優雅な生活を満喫できるよん~」
――ス、ステキなプレイとは......?
「悪くない条件だと思うけどお?」
――たしかに、ごはんをちゃんと食べることができるのなら、すごく良い話だよ。でも、何をされるんだか......。でも、ごはん......!
まだ動き続ける手を払いのけながら、聖夜はご飯を想像して、ぽたぽたと、よだれを零していた。
――あわわわ。しまった、つい。
――私もです。
気が付けば、架也も口元を腕で拭いている。
「し、仕方ありませんね、聖夜。ここは、あなたが長生きすることが大事なので、この変質者にお世話になるしかなさそうです」
「ふぇ。架也兄さんが言うのなら、が、がんばってみようかな」
――ハッ! ごはん。ごはんにつられてばっかりだよう!
――お、お腹が減っては戦はできませんから......!
頭を抱えてあたふたする聖夜たちの肩を、ポンポンと笑顔で彼が叩いた。
「じゃあ、決定~! 今日から二人とも俺のお仕事の助手兼恋人ね。よろしく~。もちろん架也ちゃんも毎日しっかり遊ぼうネ~」
「わ、私もですか! 私のおちんちんは聖夜だけのものですから、お、お断りをします」
「だ~め。聖夜ちゃんのペニスも、架也ちゃんのペニスも今日から俺のもの~♪」
「はあっ!? 何ですかそれは。それよりも、い、いきなり恋人だなんて!」
「声は焦っているのに、顔は嫌そうに見えないなあ、むふふふ。俺は聖夜ちゃんも架也ちゃんもどっちもほしくてたまんないのお。ひ、と、め、ぼ、れなの~。一緒に来てくれなきゃ、やだやだやあだ~」
と、彼は、架也の股間に頬をすりすりし始めたかと思うと、唇で架也の竿の部分をくわえてふるふると揺らした。
「ひゃあ、やめてください~! あひゃあ、くすぐったいっ。やめてっ」
「じゃあ、二人ともうちに来てくれる~?」
「なっ、強引な......っ! あひゃっ、そこはダメですってば!」
二人の楽しそうなやり取りを眺めながら、聖夜は、自然と笑みが零れた。
――ふふっ。うれしいなあ! この人は、お母さんと違って、僕のことも兄さんのことも、一人一人として、どちらも大切にしてくれるんだね.......!
この人となら、仲良くなれそうな気がすると、聖夜は何となく直観で思った。
「ちょ、聖夜ぁ。助けてくださいっ。くすぐったくて、死にそうです......」
「あ、ごめんなさい。兄さん、しっかりして」
「うう、体をよじり過ぎて、背中が痛いです......」
「あははは。架也ちゃんは敏感なんだなあ」
彼は、笑いながらも、架也の背中をやさしく撫でてくれた。
「そうそう。俺の名前は、千巻 。ちょっとHな本を書いているそこらへんのお兄さんさ。そんなこんなで今日からよろしく~。今日は歓迎パーティーだからね。や・き・に・く! しっかりタンパク質とって、たくさ~ん精液作ってネ♪」
「お、おにく!」
思わず体がまた反応してしまう。よだれがあふれてくる。
「なんと、お肉ですか!」
ごくりと、唾液を飲み込む音が聞こえてくる。どうやら架也も、また反応してしまったようだ。
それを見て、にこやかに千巻が返事をする。
「そう、お肉だよ~」
久しぶりに聞く食べ物に、聖夜たちは目を輝かせた。
空にまたたいている星々よりも輝いていたのは言うまでもない。
――星明りの街(した)で出逢ったのは、心やさしい変質者(せいねん)だった。
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