3 / 19
第一章~星明かりの街(した)で/第ニ節 温かいお風呂場~
「さあ、着いたよん。ここが俺の部屋で~す」
あの後、赤い薔薇の咲く公園を二つ通り過ぎて、その先にあった十五階建ての大きなマンションの一室に、聖夜 と架也 は案内された。
このマンションは外壁、部屋の壁紙、床、天井も、銀河色で構築されていた。藍色の壁に無数に散りばめられた星々の所が蓄光塗料で塗られているらしく、星空の下ではそこに建物があるようには見えず、空とひとつながりになっているように見えた。
部屋も電気を点けてもらうまでは、星空を歩いているような不思議な感覚だった。
「さて、さっそく晩御飯といきたいところだけど、その前に、俺とシャワーを浴びようね~。濡れたままじゃ風邪ひいちゃう」
千巻 は、にこやかにそう言いながら、もう既に聖夜のシャツを脱がし始めていた。
「わ、わ。僕、自分でぬぐことできるよ」
慌てて、聖夜が千巻の両手を止めようとすると、
「だ~め。俺がやりたいの。こうやって上から焦らしながら、最後にペニスを取り出すまでのドキドキ感がたまんないのよ。聖夜君にも味わってもらいたいの~」
と、舌を出して器用にボタンを外し続けた。
――ひぇ、このひとやっぱり変質者......。
舌がお腹あたりをペロペロと這って、もう後はズボンのチャックだけとなった時だった。
覚悟を決めた聖夜を押しのけて、架也が飛び込んできた。
「そ、そこまでです! 聖夜のおちんちんは、私が守ります!」
「やだあ、可愛い! さっそく嫉妬お? 大丈夫、架也ちゃんの『おちんちん』も可愛がってあげるからさ、慌てないで。順番こ、ネ」
「そ、そういうのでは......! ちょっ、舌を止めてくださいっ。くすぐった、いぃぃ。あひっ!」
架也は、千巻の舌をつまんで止めようとしたのだが、すばしっこくチロチロと舐め回されてしまい、身悶えている。
そして、その隙を突いて、ズボン越しに局部を口に含まれてしまった。
「はあん! 反則技ですう......!」
何度もクルクルと口の中で大きく舐められて、濡れて冷たかったズボンはすっかり千巻の口の温度と一体化して、じんわり温かくなってきた。
聖夜も、架也もそれを気持ち悪いとは思わず、何とも心地が良くて、ずっとそうしていてもらいたいという不思議な感覚を味わっていた。
「ふふ。気持ち良さそうな顔して。可愛い子たちだねえ。そろそろ、架也ちゃんのペニスちゃんにご挨拶しようかな。それとも、やっぱり聖夜ちゃんのにする?」
千巻は、片手をズボンの前に入れ込むと、中の大きくなりかけたペニスをチャックで巻き込まないように配慮をしながら、もう片方の手で、やさしい手付きで社会の窓を開けてくれた。
そして、足の先まで全て服を取りのぞくと、
「こっちだよん」と、浴室まで手をつないで案内してくれた。
架也は、明るい場所での全裸な状況に頬を赤らめながらも、先ほどの配慮にうれし涙を零した。
聖夜のことも、自分のこともちゃんと見てくれて、大切にしてくれるだなんて......。本当の意味で、これから聖夜と一緒にしあわせになれそうな気がして――。
「おやおや、どしたの? 緊張の糸でも切れたのかな?」
ふいに気付いた千巻がおだやかな顔で覗き込んでくる。
「えっと、これはその......」
「良いよ、良いよ、好きな時に泣いたらさ。出ちゃうもんは出ちゃう。精液のようにネ。そんで、あったか~いシャワーで洗い流しちゃえば良いのよ。そしたら、元通りっと♪」
「困りましたね。せっかく株を上げたと思いきや、やはりあなたは変質者ですね」
「あ、また変質者呼ばわり!? またお仕置きしちゃうぞお~」
「まあ、『心がやさしくて、良い変質者』ですが......」
「何それえ、ほめてんの?」
千巻は、架也の周りをぴょこぴょこ飛び跳ねて「ほめてんの?」を繰り返した。
★
浴室も、壁も床も天井も、浴槽までもが銀河色で統一されていた。
シャワーヘッドや蛇口は、銀色で、先端部分が星の形をしていた。
大きなライトのカバーは月の形をしていて、暖色系のぼんやり明るい光を放っている。
「ここのオーナーがね、宇宙に行くのが夢だったんだって。だけど持病でドクターストップがかかったらしくてね。代わりに全財産をつぎ込んで、ここを宇宙空間っぽく作っちゃったってわけよ。俺はここのデザインが気に入って選んだんだわ。まあ、最初は目が慣れなくて、足元がふらつくこともあるかもだけど。君たちも気に入ってくれるとうれしいなあ。なんせ、長くここに住むわけだから、さ」
千巻は、架也の頭にシャンプー剤をつけて、アフロヘア―のように、もっふもっふと泡立てながら、頭皮マッサージをしている。彼の指は、どこを触っても架也を夢心地にさせてくれる。もう今にも立ちながら眠りそうだった。
「長く......。ずっと、ここにいても良いってことですか?」
「もちろん!」
やさしくぬるま湯で洗い流しながら、千巻がうれしそうに答えた。
続いて、コンディショナーを軽く髪全体になじませていく。
「君たちだけならまだ余裕があるから、すぐに働かなくても大丈夫だし、自立してどこかに行かなくちゃいけないとかもないからね~。まあ、バイトとか含めてしたくなったら止めたりもしないけどね。できれば、ここでいつまでも俺と仲良く遊んでくれたら、うれしいなあ~」
またやさしく洗い流しながら、千巻が返す。
そして、取り出しておいた、先ほど帰りに購入したてのボディーネットを取ると、ボディーソープをもっこり泡立てた状態で手渡してくれた。
「あ、ありがとうございます。えっと......」
架也は、ボディーネットを持ったまま固まってしまった。
「どうしたん?」
「その......小さな頃は、お母さんに体を洗ってもらっていて、部屋に閉じ込められた後はお母さんに体を拭かれていたので、その、使い方がわからないのです」
十八歳にもなって一人で体を洗えないことを笑われるのかと思いきや、
「なあんだ。知らないんじゃ仕方ないね~。ほら、両手で肩幅ぐらいの場所を持ってみて」
と、普通に使い方を教え始めてくれたのである。
「やはりあなたは、『心がやさしくて、良い変質者』だ......」
「変質者は余計だってーの! え、また涙!?」
架也は、片手で目頭を押さえて、目の前のしあわせをいつまでも忘れないようにしようと思った。
「ほれほれ、いったんシャワーで涙流しとこ~」
「はい......」
千巻は、架也が少し落ち着くまで待ってくれた。
「よしよし、良い子だ。良い子だ」
と、頭をやさしく撫でながら。
そして、急にぱあっと笑顔になったかと思うと――。
「うふふふ。次は、ペニスちゃんの洗い方を教えてあげよう~♪」
「お、お手柔らかにお願いします......」
架也は、この変質者めと思いつつ、言葉に出すのは止めることにした。目の前の、しあわせを壊さないように――。
「まあ、これは、順番に洗いながら教える方が覚えやすいかなあ~」
局部に手を添えてきた千巻に、
「え......! あ、洗いながらって千巻さんのではなく、わわわ私のを触るのですか!?」
と、慌てると、
「大丈夫だって。痛いことはしないし、Hすぎることもしないから。聖夜ちゃんのためにも教わっておきなさいって♪」
と言いながら、ボディーソープを付けた手を、毛の部分だけ丁寧にやさしく洗い始めてしまう。
「はい、次はペニスちゃんの番。ちょっと引っぱりながら洗うからね。びっくりしないでね~」
「あわわわ」
既に硬くなってきた局部をやさしく上下に扱きながら、先端のくびれた部分もやさしい手付きで念入りに洗ってくれる。
「ここね、カリってところなの。ここにね、色々たまりやすいから、ちゃんと洗わないと、臭くなっちゃうんだよん。先端の亀頭はね、デリケートだからやさしくねん。おしっこ出すところの尿道には、ボディーソープを入れないようにね。痛くなっちゃうから。ほら、次は玉ちゃん。裏もお尻との間もちゃんと洗おうね~」
「あふう」
普段、あまり触ることも触られることも機会が少なかった場所をやさしく撫でられて、思わず変な声が出てしまった。
「あはは。架也ちゃんは反応が可愛いから、大好きだわ~。洗いがいがあるう」
「な.......っ」
「ほれ、後は流して終わり~っと♪」
「あ、ちょっと、水圧強いです! あひゃあ! わざとは止めてくださいっ」
低い温度に切り替えられていたものの、顔にもたくさんかけられた上に目に入ってしまったので、架也は大きくよろめいて、「目が、目があ~!」と、昔テレビから聞えてきたアニメーション映画の、有名なキャラクターのセリフを無意識で叫び、千巻の、胸筋が美しい厚い胸板に顔から突っ込んでしまった。
「あふう!」
「ごめん。ついやり過ぎちゃったわあ」
架也が何とか目を開けると、ちょうど左目の位置に千巻の乳首が勃っていて......。
「ぎゃあ。目が、目があ~!」
と、再び悶絶した。
「ごめんごめんって」
千巻は、架也の目の位置に注意しつつそっと胸元に顔を引き寄せると、上から頭をよしよしと撫でながら謝ってきた。
「ふぇ。本気で痛かったですぅ」
架也は、彼の胸板に顔を埋めて、涙目でぎゅっと抱き付いた。
「くすん。遊びでもいきなりはびっくりします......」
「本当にごめんなあ。俺、ここんところ色々上手くいかないことが多くってさ、久しぶりに楽しくなってはしゃぎすぎたわ」
温かくて厚い胸板に頭を付けていると、何だか、温かい毛布に包まれているようで、ホッと落ち着くことができた。
「聖夜ちゃんにも目のこと、後で謝らせて」
「はいっ」
――うれしいです。どんな時でもちゃんと、それぞれ一人の人間として大切に接してくださるのですね。
もう一度、架也は、千巻にぎゅっと抱き付いた。
「わーお♪ じゃあ、次は俺のペニスちゃんの番。おさらいとして、架也ちゃんが洗って~」
「えええっ! わ、私がですか!」
思わず、手を離して慌てふためいた。
「こ、こんなに太くて大きなおちんちんを見るのは初めてで、上手くできるかどうか......」
「ほらほらあ」
千巻は足と胸を広げて待っている。仕方なく、架也は勇気を出してボディーソープを手に付けると、ぎこちない動きではあるが、毛に触れてみた。
――あ。お父さんのようにふさふさで、何だか良いですね。ふふっ。
千巻がしてくれたように、やさしく、やさしく撫でるように指を動かした。
「お、良いね、良いねえ。うまいよ~」
「は、はいっ」
――ほめられるって、こんなに心がウキウキするものなのですね。
改めて架也はこの先も聖夜と一緒に色々なことを経験して、知って、失ったしあわせな時間を取り戻していくことができたら......と思った。
「おち......ペ二、スは、確かこうやって」
思い切って、初めて、「おちんちん」ではなく「ペニス」を使ってみたら、何だか、大人の仲間入りをしたような気がして、こそばゆい感じがした。
「うんうん、とっても丁寧で良いと思うよ。初めてだとは思えないよ。これなら聖夜ちゃんも安心だね♪」
「は、はい~っ」
架也は、最後まで洗うことができたご褒美として、冷凍みかんをお風呂上りにもらえることになった。
「おみかん......!」
「と、その前に。架也ちゃんが俺のペニスちゃんを大きくしちゃったので、我慢できませーん。なので、ここで『架也ちゃんのおちんちんタイム』をいただきまあす」
「え! だ、ダメですよ。おみかんが先ですう」
――え、Hなことはやっぱり私にはまだまだ早いですっ! しかも千巻さんのは、大きすぎて......。
慌てて、前を隠して浴室から逃げようとした架也だったが、つま先がバスマットに引っかかってしまい、前にそのままこけそうになった。
「おっと、危なあい」
後ろから、千巻が大きな手で抱き留めてくれて、どこも打つことなく済んだ。
「もう、大事なペニスちゃんを打ったらどうするの! ちゃんと足元を見なきゃ、だーめ!」
「す、すみません」
「気をつけてよ? ペニスちゃんだけでなく、可愛い架也ちゃんも何ともなくて良かったあ」
「え、ちょっと......」
千巻は、ぎゅうっと架也の体を抱きしめてきた。彼の存在感ある局部もしっかり当たっているが、それよりも彼の温かい気持ちと、心地良い体温に包まれて、架也は、うれしくて、うれしくて、また涙した。
「架也ちゃんったら、涙もろいんだからあ」
「だって、だって、千巻さんがやさしすぎるから......」
架也のあごをくいっと引き寄せると、唇にやさしく、千巻がそっと唇を重ねてくる。
――ちゅ、から始まったキスは、いつの間にか舌と舌を触れ合わせて、少し濃厚になっていった。
「続きは、冷凍みかんを食べながら、向こうのソファーでしようか♪」
ふいに唇を外した千巻は、そっと耳元で囁いた。
顔を赤く染めながらうなずき返すのを確認すると、そのまま架也をお姫様だっこで運び始めた。
「あう。は、恥ずかしいです......」
と、言いつつも、銀河色に染まった部屋で抱きかかえられていると、まるで一緒に宇宙旅行をしているような気分になって、何だか楽しくもすごくうれしい気持ちがあふれてきて、いつまでもこうしていてほしいと、架也はそっと思っていた。
――綺麗。ふふっ、今にも星々に手が届きそうです。
ああ、今夜のようにずっと、やさしい千巻さんと大好きな聖夜と一緒にいつまでもいることができたら良いのに......。
でも、いつか、聖夜が私がいなくても大丈夫になったら、統合されてしまうのでしょうね。
それでも、千巻さんなら安心してお任せすることができそうですね。
本来なら、その時が早く来ることを願うべき立場なのに、今はまだこのまま消えたくはないです。
わがまま、でしょうか?
やさしくて、しあわせなこの時間にいつまでもひたっていたいのです――。
「やーだ、架也ちゃんったら。また涙こぼして~」
千巻は、そっと舌を這わせながら、目元からあふれ出る温かい液体を舐めて取っていく。
「しょっぱあい。でも、架也ちゃんのだから大事にするんだあ。ぜーんぶ、俺のものだから、ね?」
「うわあん、なぜそんなにやさしい言葉ばっかりかけるんですかあ、私はここにいるんだ、いて良いんだと、どんどんうれしくなっちゃうじゃないですかっ」
込み上げてきた感情をもう抑えることはできなかった。架也は、千巻の肩に腕を回して、強く抱き付いて号泣した。
「良いんだよ。君はずっとここにいて。俺の目の前に今いるのは架也ちゃんだよ。聖夜ちゃんと架也ちゃん、どちらも見分けられる自信あるし、それぞれの良いところも悪いところも違うのもわかるよ。これから、二人の色々な一面をもっと知っていきたいなあ。だから、ここでいつまでも楽しく暮らそうよ♪ 俺と毎日気持ち良いことしながら、ね?」
「(さ、最後は、余計な気もしますが)あっ、ありがとう、ございます......!」
千巻は、架也よりもさらにぎゅうっと強く抱きしめ返して、首元、頬、耳元など今届く場所全てに柔らかい唇で、口づけを何度も落としてくれた。――それは、親鳥が愛おしい我が子に毛づくろいを丁寧にして、愛情を注ぐような、どこまでも慈愛に満ちたやさしい口づけだった。
――ほわああっ、なんて、なんてしあわせなのでしょう......!
架也は、またうれし涙でいっぱいになった。
「こらあ、泣きすぎ~」
「すみません、うれしくてつい」
「もう舌じゃ追いつかないから、キスでついばんじゃう~」
「あ、ちょっと、くすぐったいですってば」
その日の、銀河色のマンションの一室は、いつまでも楽しそうな笑い声で満ちていた。初めての宇宙旅行を楽しんでいる夫婦のように――。
ともだちにシェアしよう!