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第一章~星明かりの街(した)で/第四節 ドーナツkissをあなたに~ 

 ――あれから三日後のこと。 「じゃあ、さみしくなるけど、出版社との打ち合わせに行ってくるわあ。昨日話したように留守番中は、ちゃんと鍵をかけて、インターホンが鳴っても扉を開けたらダメだぞお。怖いおじさんが入ってきたら困るからね。万一、入ってきた時は、逃げ出せるなら一階の管理人さんに助けを求めて逃げること。今日は平日だからマシュマロ体型のおじさんがいるはずだから。あと、お金を出せと脅されたら、食器棚の引き出しの奥に隠しているキラキラしたものを渡して良いから、それから、それから、火事になるといけないからコンロだけは――」  普段なら出かける時以外はランニングにズボンといった、どこかの大将のようなラフな格好だったが、今日の千巻(ちまき)は白いスーツをピシッと着込んで格好良い姿をしていた。  だが、いつもより落ち着きなくしゃべり続けているせいか、せっかくのきりっとした見た目が台無しだった。  ――う~ん。しゃべらなければ、カッコイイのに。  聖夜(せいや)は、借りているトレーニングウェアの袖口で口を覆って何度も欠伸をした。 「ふぁあ。だーいじょうぶだよ。それきのうも何度もきいたー。もう耳にタコだよ」 「私がついていますので、ご安心ください。千巻さんは、お仕事に専念していただいて大丈夫ですよ」  苦笑しながらも、架也(かや)が背中を押しても、千巻は不安そうにおろおろしたままだ。  今日は、千巻が出かけないといけない日なので、聖夜たちは初めての留守番を任されることになったのだ。 「ああ、これが親が子どもを心配する気持ちなのかなあ。わあ、本当に二人を置いていって良いのかな? わあああ、俺はどうしたら!」 「ほらほら、早く出かけないと遅刻しますよー」 「まだ心の準備が~!」 「私たちは大丈夫ですから。ほらー」  架也に背中をグイグイと押されて、千巻が扉の向こう側へようやく消えた。 「ふう。やっと行きましたね」 「よし、カギをかけてっと。これで後は、千巻さんがお仕事から帰るまでの二時間ほど良い子で待っていたら良いんだよね。カンタンだよねー」 「そう、たった二時間です。怖い泥棒さんも、あんなに部屋数があるのですから、まさかこの部屋をいきなり選ぶことは滅多にないでしょうし、このマンションを選ぶとも限りませ――」  その時だった。 ――ガチャン! 「ん.....んんん!?」  窓ガラスが大きな音を立てて割れたのである。幸いにも、レースカーテンがあったので、二人に怪我はなかった。  そして、ベランダから、170cmの自分たち、174cmの千巻よりも背が高めで、緑色のベレー帽を被った小太りの中年男性が、飛び散ったガラスを靴で踏み付けながら入ってきた。 「ど、どどどど泥棒ですか?」  冷汗がドバッと出てきて、背中を伝う。千巻を送り出すまで持っていた余裕は、本番には出せそうになかった。  男性が真横まで近づいてくる。 「このおうちで一番大事な物ってどこかナ?」 「だ、大事な物ですか? た、例えばどんな......」 「そうだねえ。君にとって、ものすごく大事な物とカ――」 「えっ! 大事な......!? ここはダメだよう。おじさんにはあげられないっ」  自分たちにとって、ものすごく大事な物と聞いて、慌てた聖夜が出てきてしまい、股間をバッと両手で隠した。 「ちょっと、聖夜......!」 「困ったな。おじさん、法律分かんないからさ、臓器売買は専門外なんだよねー。そうじゃなくて、金目の物とか、もっとこう光る物があるだろウ?」 「え、金目の物! それなら僕知っているよ。待っていてー」 「聖夜!?」  聖夜は、キッチンから、ステンレス製の手付きザル、スプーン、フォーク、ナイフ、鍋など金物屋さんで入手できそうな光る物を両手いっぱいに抱えて戻ってきた。 「これで合っている?」  無邪気に笑う聖夜を見て、男性は、「あちゃあ」という顔になった。 「あの、悪いんだけど、話が分かりそうな方のお兄ちゃん出してくれなイ?」 「わ、わかりました。私ですねっ」 「ええ~! おじさんひどい~さみしい~」 「せ、聖夜、静かに! 今は大人しく待っていてくださいっ」 「いやあ、本当に話が早くて助かるヨ......」 「あの、お探しの物はお金や、お金になる物のことですよね?」 「そう、ソレ!」 「では、こちらへ......。そ、その前に。お渡ししましたら、ななな何もせず帰っていただけるとお約束をいただければ、う、うれしいのですが......」  架也は勇気を出してそこまで何とか伝えたのだが、 「まあ、物を見てからだナ」  と、良い返事をもらえなかった。 「そんな......」 「さあ、案内してくれるかナ?」   男性はポケットから折り畳みナイフを取り出して、架也の首元に当てた。 「はい......」  また冷汗が出てきて、頬を伝っていく。  心臓が、爆発しそうなくらいバクバクと高鳴る。  両手と両足共に震えて、上手く動かせず、電池切れの玩具のロボットになってしまったかのようだった。  ――何があっても、聖夜だけは私が守らなければ......!  何とか食器棚まで来て、千巻に言われた通りに奥を探ると、何やらキラキラ、ピカピカ光り輝く物が見えた。  石のように硬くて、すべすべした乳白色の小さな卵のような物体の中に、金色の細い線のような物が幾筋も入って光を放っているのである。物体そのものも、角度によっては、おだやかな夕陽のような光を放ち、とても幻想的で美しいのである――。  取り出して、男性に渡すと、彼の目の色がサッと変わった。 「こ、これハ......!」 「す、すごいものなのですか?」 「これは、玉が樹液や鉱物と合わさって長い年月をかけてできたとされる、『伝説の金玉の化石』じゃないか......! 図鑑で見たことはあるが、生で拝める日が来るとハ!」 「へ、玉ちゃん!?」  予想外の正体に架也は、頓狂な声を出してしまった。 「これは、一個で九百億円と言われているんだ。へへへへ、これがあれば、一生遊んで暮らせるぜえ。ヒャッホウ!」 「そんなに! じゃあ、帰ってもらえそうですねっ、ねっ?」 「ダメだな。こんな大物があるなら、もっと出てきそうだからなあ。お父さんお母さんは今どこだ、いつ帰ってくる? お前を脅して、ガッポリ持って帰ってやル!」  架也が、交渉がなかなか上手くいかない悔しさから、床に膝をガックリと落としかけたその時――。 「ねーねーねー、おじさん」  ふいに聖夜が出てきて、男性に話しかけたのである。 「その緑色の帽子。本当はおじさん、サンタクロースさんなんでしょう?」 「へっ!? サンタだとオ?」 「一年間良い子にしていたら、クリスマスにお母さんとお父さんがサンタさんとキョウリョクしてプレゼントをごほうびにくれるんだよね? これまでずっと良い子にしていたけど、六歳からね、僕たちずっとお母さんに暗いおへやでたたかれたことしかなかったんだ。きっとおへやのトビラもマドも、お母さんがあかないようにしていたから、ずっと来ることができなかったから今日来てくれたんだよね?」  男性はいつの間にか涙と鼻水だらけの汚い顔になっていた。 「何その悲じい話......ずずず。そこのティッシュもらうネ」 「僕のじゃないけど、どんどんつかってね」 「ありがど......。で、今そのご両親ハ?」 「お父さんもお母さんもお空にいっちゃって、もういないんだ。だから、もううちにはサンタさん来ないのかなって......。それに僕もう、大人のお兄さんとしてジリツしなきゃだから。サンタさんにはもう一生あえないと思っていたんだ。おじさん、サンタさんだよね?」 「うんうん、もうサンタで良いよ、良いよお。今まで耐えてきて、えらかったなあ、えらかったなア」  すっかり聖夜の話に引き込まれてしまった男性は、聖夜を抱きしめて頭をやさしくやさしく撫でてくれた。 「ほら、もう一人のお兄ちゃんも出ておいで」 「わ、私もですか?」 「さっきは怖い思いをさせて悪かったなあ。君、つらくて大変な時もさっきの子をずっと面倒見てきたんだろう。これまでよく頑張ったなあ。えらいぞお、えらいぞお」  と、架也のこともしっかり抱きしめて、頭を撫でてくれたのである。 「ふぇ。うぅぅうわあああん!――」  全てを見てきたわけでもないのに、これまでのことを全て肯定(ゆる)してくれて、存在もちゃんと認めてもらえたような気がして、架也は泣き出してしまった。  初めから、千巻のように二重人格のことを気持ち悪がらずに、受け入れるように接してくれたことも、とてもうれしかったのだ。                          ★      ――その後、男性がカップラーメンを作ってくれることになった。 「あ、ダメ! 火事になるから、コンロはダメなんだよ」 「おじさん、大人でサンタさんだから安心しなさいっテ」 「わあ。じゃあ、クリスマスプレゼントは、サンタさんの手作りラーメンなんだね! やったあ~」 「なんて純粋に育ったんだ、この子は......ぅウ」  ――このかたは、私と同じで涙が出やすいのかもしれませんね.....。  その時、玄関の鍵が開けられる音がした。 「ただいま~っ! 二人とも、お土産にドーナツ買ってきたよ~!」 「あ、千巻さんだあ」  玄関に走り込んで、聖夜は千巻に思い切り抱き付いた。 「あのねあのねあのね、今ね、サンタさんが来ていてね、クリスマスプレゼントにラーメンを作ってくれたんだよお。千巻さんも一緒に食べよ♪」 「っへ、夏にサンタあ?」 「うん、ほらあそこにいるおじさん」  千巻は、ソファーに知らない男性が、ものすごく大事にとっておいたニンニク味噌味のカップラーメンをすすっているのを確認して、思わず芸人のような叫び声を上げた。 「ひえええええ、知らんオッサンを招き入れとると思いきや、ここのマンションの管理人さんやないかーいっ!?」  この後、男性――このマンションの平日勤務担当の管理人は、千巻にきっちり通報されただけでなく、ティッシュ数枚とカップラーメン一個分の代金もしっかり請求され、ガラスの清掃もさせられた。 「全くこんなに壊してくれてイイ迷惑~。せっかくのドーナツが乾いちゃうじゃないのお」 「す、すみませン......」 「あと、何で俺んちを狙ったのさ?」 「しゃ、借金がかなりヤバい状態で......。あんたは、身に着けている服がよく見ればブランド物ばっかりだし、仕事と言って、家から出かけることは数週間に1回だったから在宅ワークな株で儲けてウハウハなのかと......」 「いや、俺、持っている服少ないだけなんだけどお。普段家では、ほぼランニングにズボンか洗濯が追い付かない時は全裸も多くってさ、そんないかにもそこらへんの『The オッチャン』的な格好で出かけられるわけないっての! 絶対、女の子にも男の子にも『なにあれ、ダッサ~い。うちで寝転んでいるお父さんみたいで無理ィ~』とか失礼な言葉を聞かされるんだよ!? 全国のお父さんには悪いけどさ。できれば、『きゃー、カッコイイ』って言われたいじゃん~!」 「ど、努力の証だったのですネ......」 「それに、俺、株やっていないし。内容は人前で言えるものじゃないけどさ、本! マニアックな研究書をほそぼそと書いているの! だから、自慢じゃないけど、狙われるような金持ちじゃないんだぞお」 「すみません、情報不足で入ってしまっテ......」 「いや、泥棒そのものがダメだからね?」 「そうだ、こレ」  管理人は、あの伝説の化石を取り出した。 「あーそれ。ほしかったらあげるわあ」 「え! 本当ですか! こ、これがあれば借金が返済できそうです!」  その時、警察が到着した。 「サンタさん、どこかに行っちゃうの?」 「次のお仕事の時間なんだって。相棒の赤い帽子の白いトナカイが呼んでいるんだわ」と、聖夜に真実を告げるのはかわいそうに思ったのか千巻はごまかしてくれたが、 後で、お土産のドーナツをかじりながら、聖夜は「あーサンタさんごっこ楽しかったあ」と、笑顔で言い放ったのである。 「だってね、震えて怖がる架也兄さんを助けたかったし、それに、本物じゃないって分かっていても、ずっとサンタさんにあいたかった気持ちはあったから」  なので、思い切って遊んでみたことを明かしてくれた。  ――聖夜が動いてくれなかったら、あの時どうなっていたことやら......。私は、守るどころか、あなたにずっと助けれてばかりですね......。 「ねーねー。千巻さん、ドーナツの穴にさ、千巻さんのおちんちんって大きさ的に入る?」 「へ!? 唐突だなあ。俺のは大きいから絶対無理だけど、聖夜君のなら入るかもよ?」 「え、僕のを入れるの? ドーナツと一緒に千巻さんをペロペロしたら甘くてずっとおいしいと思ったんだけどな。試しに入れてもらっちゃ、ダメえ?」 「うっ、またウサギの瞳で見上げてくる......。架也ちゃーん、この子絶対に無意識で小悪魔やっているよね? 断れないし、むしろうれしいんですけどお」 「まあ、うれしいのでしたら、大丈夫かと......」 「もちろん、架也ちゃんもペロペロしてくれるよね?」 「え! わ、私はドーナツはドーナツ、千巻さんは千巻さんで味わいたい派なので、マニアックなプレイはその、お、お断りしま、す」 「架也ちゃん、何気にそれもマニアックだから」 「そ、そうなのですか? それはさておき、あの化石は良かったのですか? ものすごく大金になるそうなのに」 「あ、あれね。あれは天然石を加工した、偽物なのよ~」 「じゃあ、借金の返済は......」 「まあ、オークションで上手く売れば、三百円から数千円ぐらいには化けるんじゃないかな? 天然石としては大きくて価値はそれなりにあるから。元は俺が、エイプリルフールネタで博物館と手を組んで作った嘘だったんだけど、急な仕事が入ってしまって、その日のうちに嘘でしたって言えずに月日が流れちゃったんだわ~はははは。一応、『博物館に見に来てね』ってその時に出していたから、博物館側で答え合わせをしてもらう形で終わったんだ。一時期ニュースにもなったけど、まさかまだ本物だと思っているひとがいてくれたとは~はは」 「はは、じゃないですよ。一歩間違えたら、死んでいたかもしれないのに、あんな石ころを渡すだなんて!」 「ごめん。だって家に他に良い物がなかなかなくて。ちなみにあれは、レプリカの文鎮ね。博物館のお土産で販売していたものだわ」 「玉ちゃんモチーフのは、何だかいらないですぅ」 「ねーね。架也兄さん、ブンチンの話は、ブンチンなだけにそこにおいておいて、千巻さんをそろそろ僕にかしてほしいなあ」 「これこれ、千巻さんは物じゃないんだから」 「聖夜ちゃん、初めて出逢った日よりもどんどん積極的になってきたよねえ」 「やさしい千巻さんのおかげで、色々変化が起きているようです。本当にありがとうございます」 「ははは。何はともあれ、作らず、素で生き生きとした顔で元気に跳ね回ってくれるのは良いことだわ。こっちまで元気になれるからネ」                     ★  ――案の定、ドーナツは、太くて立派な千巻には不可能だった。 「しょぼーん」 「仕方ないって。ドーナツは、ペニスちゃんのために作られた訳じゃないからさ。ほら、代わりに聖夜君のを入れよう? 俺が優しく舐めてあげるからさ」 「うん。じゃあキレイにあらってくるね」 「はあい」  と、シャワーを浴びに行く後ろ姿を見送ったものの、千巻は待ち切れずに追いかけて行った。 「あん」  急に大きくて温かい手の中へ包まれて、聖夜の局部が飛び跳ねる。 「俺が洗いたいなあ」 「う、うん。......良いよ」  聖夜は、掌で、大きくくるくるとお腹周りからやさしく洗われて、喉元をごろごろしてもらって喜ぶ猫のように、うっとりとした表情になっていく――。 「ふふっ、可愛いやっちゃなあ」 「僕たちが、毎日おちんちんを千巻さんに大切にかわいがってもらうだけで、お仕事がはかどるって本当?」 「そうだよ~。俺の書いているのは、ペニスを優しくされて愛を感じられるにはどんなプレイが良いかをまとめる本だからね。いつもすごく助かっているよ。可愛い二人といちゃいちゃできて、俺のペニスちゃんも大喜びだからねえ」 「僕も気持ち良くて楽しいから、千巻さんといちゃいちゃするのだいすき。兄さんとかがみごしにするのもだいすきだよ。二人とそうしているとね、むねがあったか~くなってきて、こわかったこととか、かなしい気持ちをわすれることができるんだ。もう夜にこわいゆめも見なくなってきたんだよ」 「聖夜君......!」 「いつもそばにいてくれて、ありがとね。ちゅ」 「......!」  頬にキスをされるとは思っていなかったのか、千巻はうれしそうに頬を赤らめている。 「可愛いというより、もう愛おしいわあ」  千巻が後ろから、がばっと抱きしめてきた。 「わあ、ちょっとゆるめて、くるしい~」 「ごめんごめん。ついたまらなくなって。ちゅ」  聖夜も、頬に口づけをされて、ものすごくうれしい気持ちでいっぱいになった。 「じゃあ、続きをしようか」 「うん」  千巻は、洗い終えた竿を一度タオルでそっと拭くと、エンゲージリングを指に通すように、ゆっくりやさしく、チョコレートドーナツを上からはめていった――。  亀頭の裏から、竿の裏に舌をやさしく、やさしく、這わせていく。大切な、たいせつな宝物のように。  時々チョコレートを舐めてはそのチョコレートを舌で運びながら、裏側を飴を舐るように刺激していく――。  ふいに、その舌を首筋に移動させてきたかと思うと、チロチロ舐めながら耳たぶを刺激される。 「聖夜君の『大事なおちんちん』、すっごく甘くておいしい」 「あ、耳元でささやいたら、ぞくぞくしちゃう。あぅ」  チョコレートを絡めたままの舌を口に滑り込ませて、濃厚な接吻を繰り返していきながら、片手で背中を支えて、もう片方の手で聖夜の局部をゆっくり扱いていく――。 「あん、あふ、はぁっ、はぁ......。もっと、速く強くしてぇ」 「フィニッシュは、俺の口でさせてくれる?」 「うんっ」  千巻は、再び聖夜の下腹部に頭を戻すと、喉に届くくらい奥までペニスを口に含み、舌で刺激をしながら、高速で扱き始めた。 「ぅあう、いく、いく......! もうだめ、出ちゃうからはなれてっ」  そんなの気にしないと言わんばかりに、千巻は唇のみで思い切り亀頭をより高速で攻めてきた。 「あああっ......!」  千巻の飲み切れなかった残りの精液が口からこぼれ落ちてくる。けれども、千巻はまだ扱くことを止めなかった。 「あ、ん。それ以上したら、困っちゃう......!」  暗闇を抜け出した日のように、また勝手にあふれ出てくる感覚に聖夜は恥ずかしくて、ものすごくいたたまれない気持ちになった。 「これ、潮吹きっていうんだよぉ」 「はぁ、はぁ。そ......そうなんだ。ちゃんと、名前があったんだね。はぁ、はぁ、はぁ」  体を支えてもらいながら、聖夜は千巻とドーナツの残りを半分こして食べた。 「僕のおちんちんの味、うつってる?」 「はは、これは、精液がしみ込んでいる味だわ」 「苦いねえ。大人の味って感じ」 「ははは、そうだなあ」 「今日ね、知らないおじさんが急におうちに来た時ね、本当はものすごく僕もこわかったんだ」  聖夜は千巻の厚い胸板に顔を埋めて、震え出した。 「まさか来るだなんて思わないもんなあ。ガラスが飛んでこなくて本当に良かったよ」  胸に静かにこぼれていく温かい液体を見て、千巻は聖夜の体を大切に腕の中に包み込んだ。 「明日、気分転換に、一緒に出かけようか」 「......うん」  ――その日の夜は、また聖夜が夢にうなされないようにと、千巻はいつもよりもぎゅっと手を繋いで眠ってくれた。  

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