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第四章~喜びの鐘を鳴らすために/第ニ節 ノエシス兄さん~

 ――再び、ユミコの研究所にて。  数分前、架也(かや)は、皆の前で、自分の思いを語った。  私は、理想の姿を考え作り上げる(ノエシス)ことにより、本来の自分を守る形ではなく、本来の自分が作られた側(ノエマ)だと思い作り込むことで、:傷付かない自分(聖夜(せいや))を考え守っていました。  大好きだった母から、自分は虐待を受けていないと思いたかったのだと思います。  だから、母が喜ぶような理想の自分を思い描きました。  ユミコちゃんがなりたいものになれると言っていた、姿見の魔法を信じている純粋でやさしい心持つ男の子を、です――。  「聖夜」という名前は、母が付けてくれたもので、出生届のないその名前は、私が作らなくても、初めから彼女の理想を構築して作られた子どもの名前でした。  構築していく者(ノエシス)が私なら、構築された者(ノエマ)は聖夜なのでしょうね。  私は、できれば純粋なまま大人の汚い部分をあまり知らない聖夜として生きたかった。だからこそ、見守っていく人格として、そばでその成長を見ることができるとして、聖夜に人生をかけようとしたのです。  私の本当の家族に呼ばれていた名前は、「加陽都(かやと)」です。陽が加わる都だなんて美しい名前はもう呼ばれることはないと覚悟の上で、響きだけは呼ばれていた愛称の「かやちゃん」に近づけ、「十字架を背負っていく(なり)」の「架也(かや)」と、人格の一つになろうとした自分に名付けました。聖夜に自分の存在の嘘をつき続ける罪を背負い、見守り続ける覚悟を決めた名前でした。  決して、ユミコちゃんや千巻(ちまき)さんを悲しませたいわけではなくて、私の理想、願望の押し付けに近かったのです。もちろん聖夜を悲しませたくないという気持ちも大きくて。  けれども、ユミコちゃんに再会して触れ合ったり、千巻さんとの思い出を振り返ると、とてもうれしくて楽しくて、私自身の人生をもう一度歩いてみるのも楽しそうだなあと思うようになりました。  聖夜と、あれから話し合いをしました。  彼はただただ驚いていましたが、「今まで守ってくれてありがとう。架也兄さんがしあわせになる番がきたのなら、すごくうれしい」と言ってくれました。  私は、できれば、聖夜と二人でちゃんとしあわせになりたいのです。  ですから、お願いです。ユミコちゃん、私、いえ、僕の聖夜をどうか失敗することなく、魂を分離してください。どうかよろしくお願いいいたします。  ――今、加陽都(かやと)は、聖夜の意識の集合体(魂)を分離させるため、電気信号を送るための装置に入っている。これは、脳へのマイクロチップの副作用に恐怖を感じる人のために、ユミコが長年かけて作ったものである。  数日後、彼の皮膚から培養した体に聖夜の魂を移せば完了となるのである。

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