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2. 『噂の真相』

「あっ唯斗くん!寒かったでしょう?遥馬の部屋暖かくしてあるから、ゆっくりしていってね」 はるの家に立ち寄ると、おばさんがこうして出迎えてくれる。 俺の家は、母さんも父さんも共働きで… 特に母さんは看護師として働いているのもあってか、夜勤の日は家にいなかったり、基本的に寝てることが多く、家に誰かがいて帰りを待っててくれてることがずっと羨ましく思っている。 いつはるの家に来ても、おばさんがこうして優しく出迎えてくれることに感謝しながら2階のはるの部屋へ向かう。 「あっホントに暖かい……」 「いやこれ暑すぎだろ!?設定温度すげえ高いし。電気代がバカにならないって」 ピッピッピッとリモコンを操作するはるをぼーーっと眺めていると、はるがこちらに気付く。 「あれ?唯脱がないの?」 「へあっ!?!」 「びびった……くくっ…なんだよ、へあって。っつーかいつまでも立ってないでそのへん座って?」 「……笑うなよ…俺だっていきなり声かけられてびびったんだから」 平常心を取り戻すようにコートを脱ぎ、その場に腰を下ろす。 「………ふうぅ…やっぱ外寒いから部屋に入ると生き返る…!」 「それは俺も思う……」 2人で横に並んで座り、エアコンから放たれる暖かい風を堪能する。 「あ……で、話があるんだっけ。聞きたいことと、伝えたいこと?」 「うん……そう」 「ふふっ、唯がこうやって話してくれるのなかなか無いから……ホント新鮮。何でも話してくれちゃっておっけーだから、どうぞ?」 「ん…」 この先、なんて答えが帰ってくるのが想像するのが怖くて…… 気持ちをなんとか保つように、すうはあと息を整える。 「あ、のさ……」 「うん?」 「はる…、最近…さ、付き合ってる人がいる…みたいな噂があるの、知ってる……?」 ばーっと一息で言うつもりが、ドキドキしすぎて上手く声が出ない。 「あーーー……うん、知ってる」 「そうなんだ……」 「うん。……それで?」 「え?」 「唯が言いたいことは、まだあるんでしょ?」 俺の心の中を読み取るようにそう口にするはる。 本当に聞いていいのか、踏み込んでいいのか… さっきまであんなに『聞いてやる!』って意気込んでたのに、どっと不安が垂れ流れる。 「あ……えっ、と………」 「……唯。俺下から飲み物取ってくるから」 「うん……、」 「それまでに、ちゃーんと言いたい事まとめておいて?」 リラックスリラックス、と言葉を続けるはるの手が、俺の頭に乗るのが分かる。 ポンポンっとそっと頭を撫でられるような感覚。 それは、俺が言葉に悩んでる時に毎回はるがしてくれることだった。 ……そうか、リラックス… 一つ一つちゃんと言えば、きっと伝わる…っ うん、大丈夫、大丈夫… 「唯ーー」 「はぁあいっっ」 「………くくっっ…」 「おい……」 「ごめん…くくっ…、唯って驚く時さ、若干オネエ入るよな……おもしれえ…」 「……ほっとけ」 ごめんと謝りながら笑いが止まらないはる。 …ばかはる… もっと怒ってやろうと思ったのに、無邪気な笑顔見せられたら… 怒る気持ちもどっかいくっつの… 「唯はりんごジュースだよな、はいどーぞ」 「ありがと……そういえばはる、飲むもの変えた?」 「ん?ああ、コーヒーの砂糖を少なくしたんだけど……さすが唯。気付いた?」 「まあ…なんとなくだけどね」 甘いりんごジュースを飲む自分が少しだけ恥ずかしくなりながら、本題に入る。 「それで……あのさ、はる」 「うん?」 「その…噂の、ことなんだけど。……付き合ってる人がいるって…本当?」 「あぁ………」 少しの沈黙が、いつもより重く感じる。 「んー……半分本当で、半分は嘘、かな」 「半分?」 「そ、半分。告白はされたけど、まだ答えが出てなくて」 …喜んでいいのか悪いのか はるはその子に、どんな返事をするんだろう? もどかしい気持ちが自分の中に渦巻くのを感じる。 「返事、どうするの?」 「それが結構悩んでて…クリスマスに返事して!って言われてるんだけど、もうあまり時間ないじゃん?」 それからはるは、同じクラスになったこともあってかわいくて優しい子だから迷ってる、と続けた。 早く言わないと、早く言わないと……っ はるが、どんどん遠くにいっちゃう… 幼馴染みじゃなくて、ただの友達になっちゃうかもしれない…… 焦りが募るのを感じながら、手に力を込める。 「…、はるっ…!」 「んー?」 「俺…はるのことが、ずっと…ずっと…っっ」 ーー好き。 たった二文字が、たった一言が言葉に出ない。 嫌われたらどうしよう。 はるに引いたりされたらどうしよう。 関係が壊れて、崩れてしまったらどうしよう………? はるは俺を嫌いにならないなんて、誰が保証できる? 引かれない保証は、どこにある…? 男同士なのに何言ってるんだって思われたら、俺は今後どうしたらいい……? どれだけそれを口にしようとしても、言葉が繋がらない。 「…ごめん。今日は、帰る…」 「え?ちょ、唯…何か、言いかけて…」 「…なんでもない、っていうか何言うか忘れちゃったから…はるも忘れて?ホント、ごめんね」 逃げるようにバッグとコートを掴み、はるの部屋から飛び出した。 「……俺にまで、なんでもないなんて嘘ついてんじゃねぇよ…ばか唯斗…」 そんなはるの声は俺にまで届かなかった。

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