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一日目 ~迎え火~ ②

 人が三人、並べば一杯になりそうな小さな橋だ。古びた欄干の親柱には、なにやら文字が書かれているのが見えるが、年月を経たせいか、文字が擦れて読み取るのは難しい。  目を眇める影彦の視界に、白い服を着た少年が映った。麦わら帽子をかぶり、手には虫取り網。所在無げに柱へもたれかかっている。 「よぅ、みつる」  影彦が声をかけると、少年はちらと彼へと目を向けるが、再び別の方向へと視線が逸らされた。 「また今年も来たんか」  無視をされていたわけではないらしい。そんな応えが返ってくる。影彦は口角を上げると、小さく肩を竦めてみせた。  白い横顔を見せる少年は、所在無げに見えるが、かといって彼の言葉を待っている風でもない。どこか近寄りがたい雰囲気も感じる。とは言え話しかけた以上、このまま去るのもバツが悪いような気がして、影彦はなにか話題を探した。 「隆弘は今年も来ないのか?」  なんの気なしに口から出た言葉。失言だったと気付いたのは、白い服が身を翻し、橋の向こうへ駈け去って行った後だった。  ため息が腹の奥から零れる。だが、出てしまった言葉は取り返せない。彼は旅行鞄を持ち直すと、少年の去って行った方へと歩みを進める。  今にも崩壊しそうなオンボロの橋は、見かけによらずしっかりと彼の身体を支え、まだまだ現役だということを彼に示した。  欄干に手を掛けると、下を覗き込む。清涼な水の流れが、下流へと続いている。そう言えば、小さい頃はこの川で良く水遊びをしたものだと、そんなことを思い出す。もっと上流の山の中に、夏になればクラスメイトたちと出掛けたものだ。

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