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一日目 ~迎え火~ ③

 木々にとまる虫を捕まえたり、水辺の沢で、沢ガニや魚を取って焼いて食べたり、山は遊びの宝庫だ。もっとも、なにもない田舎の村だ。他に遊ぶ手段がないだけともいう。父親たちは休みになると、車で数キロ走った遊技場へ出掛けていて、たまに連れて行って貰うことも出来たが、何時間も台のそばで大人しくしていなければならない。  父親が勝てば近くのホームセンターで、大きなパフェを食べさせて貰えたが、負ければ不機嫌な相手とともに帰りの車の中で大人しくしているしかない。そう考えると、子供にとっても父親に付き合うのは、なかなか大きな賭けのようなものだ。休みの日がほとんど潰れるのだ。これは大きい。  もっとも小さな村のこと、同じような境遇の子供は他にもいた。向こうで示し合わせて勝った父親に便乗するくらいの知恵はある。 「あの日も確か夏生が……」  懐かしげに目を細めた影彦は、不意に顔を強張らせると、なにかを振り払うように首を振った。  橋の向こうも田舎道が続いている。正面に見える山の方まで真っ直ぐに。山の上には赤い鳥居があり、毎年この季節には祭りも行われている。盆の季節に祭りだなんてと、近くの町からこの村に嫁に来た母親はぼやいていたが、有名な盆踊りはこの時期だし、生まれた時からそれが当たり前であった影彦は、特になにも思わない。  田んぼの脇を流れる水路の流れを横目で見ながら、ギイと鳴る水車の側を通り過ぎると、ようやく目的地が見えてきた。青々とした稲の絨毯に囲まれた日本家屋。近づくと玄関先で、老婆が火を焚いていた。

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