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一日目 ~迎え火~ ④
「おぉ、よう来たのぅ」
見る度に小さく縮んでいる気がする。出迎えてくれた彼の祖母は、小さな背を丸め、くしゃくしゃな顔のシワをさらに増やした。
家に入り、すっかり汗を吸ったシャツを着替えると、仏壇に手を合わせる。部屋の隅に置かれた盆に、茄子と胡瓜が載っているのを見つけると、彼は一緒に添えられていた割り箸を手にした。
『行きは胡瓜の馬、帰りは茄子の牛』
来る時は早く来てもらい、帰りはゆっくりとご先祖さまに帰っていただくのだと、教えてくれたのは彼の祖父だった。胡瓜に削った割り箸を差し込んで、作られていく馬を、一緒にいた彼の幼馴染は目を輝かせて見ていたものだ。
「おかえり」
馬と牛を盆に載せ、出来栄えに満足していた影彦が振り返ると、障子の陰からひょこりと頭が覗いている。
「ただいま、夏生」
柔らかそうな栗色の髪、ほっそりとした姿体、人懐こそうな垂れた瞳が瞬くと、夏生と呼ばれた彼はゆっくりと部屋へと入ってきた。
「帰って、来たんだ?」
「当たり前だろ」
「そう?」
力強く請け合う影彦の言葉をそんな風に流すと、夏生は彼の隣に座って、仏壇に手を合わせた。
「つか、どうやって入ってきたんだよ、お前」
「ばぁちゃんが入れてくれたよ。それにこの家、元々鍵掛かってないじゃん」
ふてくされたような顔をする影彦を、しれっとした体でかわす夏生。鍵を掛けないのは影彦の家だけではない。この村のほとんどだ。治安がいいというより、村人すべてが顔見知りのため、なにかあったらすぐに判るからだ。同じようによそ者が村に来たらすぐに村中に伝わる。もっともこんな過疎村に、やってくる物好きな人間など、皆無なのだが。
昨今の過疎村移住や村おこしブームとも、この村は無縁だ。
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