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一日目 ~迎え火~ ⑥
「ねぇ、なに考えてる?」
「別に。それよりそろそろ飯時だろ」
思考を振り払うように、ことさらなにごともなさげに言い捨てる。夏生はそれに気づいているのか、いないのか、特に言い返すこともなかった。
「ばぁちゃん、今日はそうめんだって」
「お前のばぁちゃんじゃねぇだろ」
夏生の祖父母はとうに亡くなっていて、両親は自分たちの親が亡くなった後、農家を辞め、共働きで近くの役場に勤めている。小さいころから、日が暮れるまで影彦の家に預けられていた夏生は、自然彼の両親や祖母に懐いた。
「影彦がババ不幸するなら、ばぁちゃんは俺がもらうって、言ってあるよ」
「不幸には、してな、い」
と、思う。毎年こうして帰ってきているし、祖母は彼が帰ってくれば喜んでくれる。彼と両親が都会へ引っ越す時、ともに来てはくれなかったが、影彦は自分なりに祖母のことを気にかけていた。
「なぁ、夏生」
「ん?」
「俺、こっちで就職口、探そうかと思うんだけど」
「なぜ?」
「なぜって、ばぁちゃんも年だしな」
「今の会社、いい会社だって言ってなかったっけ」
「こないだ主任になったぜ、異例の昇進だ」
「却下だね」
にべもなく言うと、夏生は影彦の肩に手を置いて身を離した。立ち上がって身支度を整える。
「却下って、おい!?」
「ばぁちゃん、手伝ってくるよ。そろそろ湯が沸く頃だし。水で締めるのに氷も割らないとね。影彦、錦糸卵好きだろ。缶詰のみかんもあるよ」
「夏生!!」
呼び止める声をさらりと流して、夏生は敷居をまたいで廊下へ飛び出した。後を追いかけて障子に手をかけたが、既に彼は廊下の角を曲がった後だ。
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