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二日目 ~蝉しぐれ~ ①
影彦が帰って来たと知った近所の村人たちが押しかけ、結果的には更に賑やかな夕飯となった。
いつの間に聞きつけたんだと思ったが、閉鎖的な村ではプライバシーなどあってないようなものだ。どこの家で牛の子が生まれただの、誰それが誰に告白しただの、あっという間に村中に知れ渡る。
そのことを思い出した影彦は、都会のドライな空気が一瞬懐かしくなったものの、持ち寄られた鉢を分け合いながら囲む温かい団欒に頬を緩めた。
祖母の張った蚊帳の中に布団を敷くと、二人して枕を並べて横になる。
しんしんと、沈む暗闇の中。さやさやと小川の流れる音を聞いていると、いつのまにか深い深い水底にいるような気がしてくる。ぼんやりと、月明かりで見える蚊帳が水面のようで。水の中に囚われているようだと、影彦は思った。
ただ、外で騒ぐカエルの声が、深く深く脳内へと響く。まるで騒々しい鐘の音のよう。
「起きてる?」
「ん」
眠れないのだろうか。隣で横になっていた夏生が、もぞりと動いた。
「相変わらず、煩い声だ」
「あはは、かっちゃんあれだね。すっかり都会っ子ってやつ?」
「昔はこの騒音の中で寝てたなんて、信じらんないよ」
ぐりぐりと、枕に頭をこすりつけてみたけれど、多少マシになったと思うのも幻聴に違いない。
「ほら」
ひいやりとしたものが手に触れた。夏生の手だ。
「人の体温って、安心するって言うだろ?」
「それにしちゃ、冷たいけどな」
「贅沢言うなよ。ほらほら、とっとと安心しろよ」
「強制かよ」
くすくすと笑い声が聞こえ、暗がりの中で影彦の眉が寄る。柔らかな手。長い指が彼の指に絡まった。すべすべした質感も感じられる。夏生の手。
しばらくにぎにぎとしているうちに、本当にマシになってきたような気もしないでもない。
「まだ眠れないなら、子守歌も歌ってあげるよ」
「いらね」
本当に歌いだしかねない幼馴染に、影彦は背を向けると頭から布団をかぶった。
つないだ手は、そのままに。
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