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二日目 ~蝉しぐれ~ ④
「ほんま、仲良えねぇ」
レジと呼ぶには旧式な機械のそばにある椅子にちょこんと腰掛け、こちらを見ている老婆が、しわしわの顔を更に歪めると、影彦たちに笑いかけてくる。店の商品の中に埋もれた姿は、眩しい外とは対照的な闇に紛れて、暗いしみのようにも見える。
「別に、仲良くないですよ」
「まぁま、なっちゃんも素直ならな。今年も来るかなぁって言うとったやろ」
「……待ってないし」
もごもごと口籠る夏生に吹き出すと、頬をつねられた。「痛い」と抗議したら、「知らん」と横を向かれる。
「あぁ、かっちゃん、おかえり」
目を上げると、ひまわり色の帽子をかぶった、恰幅の良い女性が彼に笑いかけていた。手には大きなスイカがひとつ。近所の農家から貰ってきたのだと言う。この時期この辺りでは道端によく転がっていて、昔サッカーボールに見立てて蹴とばして、ひどい目にあったことがある。
「大山さん、お邪魔してます」
「なっちゃんもおかえり、今年はずいぶん早いねぇ」
彼女は夏生にもそう声をかけると、店の奥を見て目を丸くした。
「ありゃ、お母さん、帰ってきたばっかでそんな、店のことなんかせんでもえぇのに。なんで奥でゆっくりせんのよぉ?」
「昌子さん、なにゆうとん、わしゃ店のことやりとぉて帰ってきとんや」
「そんなんゆうてもなぁ」
一見頑固老婆とその娘といった感じだが、困ったように眉を寄せる女性はどこか楽しそうにも見えて、影彦は夏生に目配せすると、空き瓶を横に置いて立ち上がった。
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