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二日目 ~蝉しぐれ~ ⑤

「そいや、どこへ行くつもりだったんだ?」  駄菓子屋を離れ、二人並んで歩きだす。先ほどのみかん水が効いたのか、だいぶ頭もはっきりしてきたらしく、影彦は横を歩く夏生へとそう問いかけた。 「あ、うん。明後日のお祭りの打ち合わせ。ばぁちゃん今年実行委員だってよ。お前が代わりに今日の打ち合わせ出るって言っといた」 「なっ!?」  にんまりと、唇が三日月の形に引き上げられる。絶句した影彦を見て、夏生はけらけらと笑い転げた。 「ババ孝行、してやれよ。ばぁちゃん、こんな暑い中出歩かせて日射病になったらどうすんだ」 「ばぁちゃん、裏の畑の世話してるだろうから、出歩くのも変わんねぇだろうが。むしろエアコンのかかった部屋で培養された、俺の日射病を心配しろよ。第一、今日出たところで話なんかわかんねぇぞ」 「まぁ適当でいいんじゃ?」  夏生は軽く手を振ると、先に立って歩きかけ、そのまま足を止めた。 「どうし……」  動かない夏生を不思議に思い、声をかけた影彦は、彼の視線の先を見て、自分も立ち止まる。 「影彦ちゃん?」  黒い日傘。白地に青い小花柄のワンピースを着た女性が、こちらに歩いてきた。傾けた傘の影から、小さな顔が覗く。ふうわりとした栗色の髪と人懐っこそうな垂れた瞳は、どこかの誰かを思わせる。 「夏生の……お母さん」 「お久しぶりやね」 「お久し、ぶりです」  影彦を見て彼女は少し目を見開くと、柔らかな微笑みを浮かべた。儚げという言葉が似合う彼女は、夏生の母親だ。横目で夏生を見ると、そっと影彦の後ろに隠れるように移動する。 「今年も帰っとったんやねぇ」 「えぇ……」

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