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二日目 ~蝉しぐれ~ ⑥
影彦は気まずげに目を足元へと向けた。じりじりと地面が焼けるような感覚が伝わってくる。無言のひと時が過ぎていった。しばらく地面を小さな蟻が行列を作っているのを見ていると、目の前の空気がゆるりと動く。
「ごめんね、引き止めて。良かったら、またうちにも寄ったって。夏生も喜ぶわ」
「はい、わかりました」
夏生の母親は、懐かしそうに目を細めると、頭を下げ、すれ違うように去って行った。
「おい」
背後で胸を撫で下ろしている夏生に、咎めるような視線を向ける。夏生は肩を竦めると「行こうぜ」と彼の肩を抱いた。
「いいのか?」
「いいのかもないよ」
どこか諦念したように、顔を歪める夏生。影彦は舌打ちすると、身を捩って彼の腕を捕まえた。
「おばさん!」
「影彦?」
叫んだ影彦に目を丸くする夏生。夏生の母親は日傘を傾けると、ゆっくりとこちらを振り返った。だが、じっとこちらへ向けられる視線に、言葉を詰まらせる。言いたいことはあるのだ。そんなに難しい言葉じゃない。たった一言。たった、一言なのに。
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