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三日目 ~昼下がり~ ①

 後悔しない人生を送りなさい。  高校に入学した日に、教壇に立った先生が最初に言った言葉だ。  小さな村の分校から、少し遠い町の高校に入学した影彦は、今までの小さな世界から、大きな場所へと、自分が移動したのを知った。  今彼の住む都会に比べるとまだまだ田舎ではあるが、駅前にはコンビニもあり、もう一つ先の駅には大きなショッピングセンターもある。村までは少し遠いけれど、帰りにちょっとくらいなら遊んで帰ることも可能だ。  思いがけず広がった世界に、少し浮かれていたのだろう。いつも一緒にいた分身ともいえる相手が、自分と距離を置き始めたのに、最初のころは気づかなかった。 「B組の安藤さんに告白されたってよ」  誰が。なんて、教えてくれたクラスメイトに思わず聞き返してしまい、次に自分の顔がずいぶんと強張っているのに気付いた。そんなの、いまさらのはずなのに。  明るくて人懐っこい彼の幼馴染は、その整った容貌と併せて昔からよくモテた。影彦がほのかに想いを寄せていた少女も、大抵は夏生を好きになったものだ。それが羨ましくもあったが、彼は色事にまったく興味がないのか、いつもやんわりと断っていた。

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