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三日目 ~昼下がり~ ③

 降り続いた雨は夜半まで続き、蒸していた地上を冷たく覆った。うだるような暑さは、緑に埋もれ清涼な風の吹くこの地では、都会ほどではないものの、それでも照りつける陽射しは十分な凶器だ。  普段エアコン慣れをしている、都会の人間である影彦は、縁側に転がると、かたわらでブンブンと羽根を回す扇風機の風を浴びていた。手に持った団扇で顔を仰いでいると、廊下の端から祖母が顔を出す。床と同化している孫をじぃっと見て、ひょこひょこと彼の方へ歩いてきた。お盆を手に、影彦を見下ろす。 「なんや、影彦。セコイんか?」 「セコ……? いや、しんどくはないよ」  元々彼もこちらで育ったとはいえ、既にこの地を離れて久しい。たまに出てくる方言に、一瞬対応出来ないこともある。  お盆に乗っていたのは、皿が二つ。入っていたのは大きな桃だ。昨日冷蔵庫にあったのを見つけて、出てくるのを楽しみにしていたやつだ。身体を起こして皿ごと受け取ると、少しチクチクした柔らかい皮を撫でる。押しただけでつるりとむけそうなくらい柔らかだ。  目を上げると、傍らに祖母がちんまりと座り込んだ。残りの皿を手にしている。どうやら一緒に食べる気のようだ。影彦は抱え込んだ桃の皿に目を落とし、こっそりとため息を落とす。  夕べ、夏生は帰ってこなかった。最後に見た彼の表情が忘れられない。布団に転がって、だんだんと明るくなる東の空を見上げながら、影彦は胸にぽっかりと開いた空洞を感じていた。それは常に感じていたけれど、なるべく目を向けまいとしていたもの。

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