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三日目 ~昼下がり~ ④
「なぁ、ばぁちゃん」
「なんや」
「ばぁちゃんは、じぃちゃんのこと……その」
言うべき言葉が出てこなくて、影彦は桃の皮の端に手をかけた。ぷつと、音がして端が千切れると、案の定、苦労せずにするするむける。彼は手から滴り落ちてくる雫を舐めとり、赤ん坊の肌のように柔らかな桃にかじりついた。
辺りから聞こえるのは扇風機と風鈴の音。遠くから蝉や太鼓の音が耳へと届く。明日の祭りの練習だろうか。
「あん人は、じぃちゃんやけど、もうじぃちゃんやないなぁ。ご先祖さまや」
同じように縁側に座って桃をむいていた祖母は、影彦の躊躇いに気づいているのか、そうぽつりと言った。
「なぁ、影彦。なんであの人らが帰って来るんか解るか?」
「わかんね」
小さい頃、当たり前だったことが、実は村の外ではあり得ない事象とされているのを、転校して初めて、影彦は知った。
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