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三日目 ~昼下がり~ ⑤
『ご先祖さま』。それは、村に戻ってくる人たちのことだ。
影彦の生まれ育ったこの村では、毎年この季節、亡くなったものたちが村のあちこちに現れる。幽霊のようだが実体を持ち、生きていた時と同じように笑い、泣き、抱きあうことが出来る。そんな存在だ。
なぜこの村だけでそのような不思議が起こるのか、影彦は知らない。『ご先祖さま』については、村に生まれたものだけが知る、公然とした秘密のようなものだ。彼に解るのは、どうやらそれはこの村だけらしいということ。それゆえに、この村は他の村にあるような村起こしや、地域活性化などとは無縁のひっそりとした生活を送らねばならないということだ。
数年前村に戻ってきた影彦は、夏生に逢った。死んだはずの幼馴染が、目の前にいる事実に、影彦は驚き、そして驚喜した。本来ならば不思議に思う現象だろう。だが生まれた時からこの村で育った影彦は、そのことを特に不思議とは思わなかった。村人たちはごく当たり前のように帰ってきていたし、なら夏生もそうだったのだろうと単純に受け止めてただけだ。
ただ、現れた理由については、単純には受け止められなかったのだが。
「そこに未練があるからや」
「未練?」
過去に思いを馳せていた影彦は、またぽつりとした祖母の呟きを聞き逃しそうになり、慌てて尋ね返した。
彼を好きだと言った夏生。大事な幼馴染に逢って思ったのは、もう二度と喪いたくないという強い想い。彼が受け入れていれば夏生が死ななくてすんだかもしれないという、自責の念は、いびつに形を変えて、彼らの間にあった。
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