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三日目 ~昼下がり~ ⑦

 そんな疑問が口をつく。昨日見た美しい女性。彼女はとても夏生を愛していた。親子というより、仲の良い姉と弟のように。現れるとしたら、影彦のもとではなく、本当なら母親のそばだろうに。 「あん人は、外の人やけん」 「外?」 「あぁ、隣の村から嫁いで来たんや。せやから『視えん』。視えるのはこの村で生まれたもんでないとな」 「じゃぁ、梨本のおじさんが『視えない』のも?」 「あぁ、せつさんとこの旦那はんか。せや。そうゆうたかて、ここ数十年でほとんどみんな、村の外に行ってもうたからなぁ。外からやって来るもんの方が多なってもうた。『視えん』もんが増えたなぁ」  ぺろりと。祖母は雫を舐めとると、首から下げていた手拭いで指を拭った。皿の中には桃の皮と、茶色い種が一つ。視線を向けられて、影彦は慌てて桃にかぶりついた。 「その代わり、戻って来るもんもおるみたいやけどなぁ。ほれ、三軒先の。初盆やろ」  祖母に言われて思い出す。そう言えば近所の軒下に、白い提灯が下がっていた。 「あそこの家の息子の。確か隆弘やったかな、ここ数年ずっと入院しとったらしいわ。最後はこの村に戻りたいゆうたんやと。もう二十年も外に行っとったのになぁ」  覚えている。まだ小さいころ、近所に住んでいた眼鏡をかけたお兄さん。村の小さい子供たちと一緒によく遊んだものだ。その頃の子供たちのリーダーは、村一番の腕白だったみつるだ。 「なぁ、影彦」  しばらく無言の時が流れ、辺りをまた蝉の声が覆った。この縁側だけ、まるで現実から隔離されているかのようだ。祖母から渡された手ぬぐいで手と口元を拭うと、影彦は祖母の方を見た。 「ほんまやったら、ご先祖さま言うもんは、静かにお祀りするもんや。それをワシらの未練で出てきてもうて、えぇんやろうか。そうは、思わんか?」  祖母はそこまで一息に言うと、じっと影彦の顔を見やる。静かで、静謐な声に、彼の背中がぞわりと、震えが走った。こくりと、息を飲む。  この村では当たり前のこと。だが、この村だけの当たり前のこと。  どうして、彼らは帰って来るのだろう。

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