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三日目 ~昼下がり~ ⑨
「ばぁちゃん、あっちいったぞ」
「わぁっとる。せやから来たんやろ」
ばぁさん、おっかないからなぁ。しみじみとそう言ってため息をつく祖父は、生きているものとなんら変わらない。彼が亡くなったのは、もうずいぶんと昔のはず。なのに毎年家に帰って来るから、そんなのすっかり忘れていた。
ほれと、差し出されたのを反射的に受け取る。パッケージキャラクターがおなじみのソーダアイスだ。袋を破ると、少し溶けかけたそれにかぶりついた。
じりじりと、地面を焼く昼下がりの太陽の下、二人してアイスを食べていると、なんだか時間がどこかへ行ってしまったような気がする。もうすぐひぐらしの鳴く頃だろう。風が吹いて、庭に咲いている向日葵が時折揺れた。
「ばぁちゃんが、じぃちゃんが帰って来るの、ばぁちゃんの未練のせいだって言ってた」
「う~ん、そうか。ワシにはそういうの、解らんなぁ」
影彦の言葉に、祖父は無精ひげの生えた顎を撫でると、うーんっと、空を見上げて考え込む。
「ただなぁ、ワシらがなんでおるのかわからんけどな。ばぁさんが楽しそうやけん、えぇなと思うわ」
「なんだよ、それ。普通さ、そういう謎的なものって、もう少し難しい事情があったり、内容が深かったりとかせぇへんか?」
影彦はため息をついて肩を落とした。時が止まったようなのどかな田舎の雰囲気のまま、人々の気質ものんびりとしているのか。それとも影彦の祖父母が特別なのか。思わず土地の言葉が出てしまい、彼は口元を抑えた。
「じぃちゃん、ちょぃ出てくる」
アイスの棒を部屋のくず籠に捨てると、影彦は立ち上がって縁側に置いてあった下駄をつっかけた。祖父は彼がどこへ行くつもりなのか、気づいているのかいないのか、「今日の晩飯はサバの味噌煮と風呂吹き大根やぞ」と、のんきに手を振って送ってくれた。
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