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三日目 ~昼下がり~ ⑩
「まぁ、いらっしゃい」
夏生の家は、田舎の家にはあまりそぐわない、洋風の家だ。小さいころは他の家とは違う、小洒落た感じに憧れたものだ。畳じゃなくてつるつるとした床や吹き抜けの居間、夏生の部屋はロフトもついていて、まるで秘密基地のようだった。
彼が亡くなってからは疎遠になってしまったため、彼の家の扉を潜るのは、ずいぶんと久しぶりだ。
夏生の母親は影彦を歓迎してくれた。位牌に手を合わせると、影彦は夏生の部屋へと案内される。主のいない部屋だが、掃除は行き届いているようだ。暑いからねと、エアコンのスイッチが入れられて、清涼な空気が頬に当たるのを感じた。
「来てくれて嬉しいわぁ。夏生、かっちゃんかっちゃんって。かっちゃんのこと、大好きやったからねぇ」
彼女は冷たい麦茶をテーブルに置くと、懐かしそうに目を細めた。
「しゃぁないね、あんなこと、なってしもたし。かっちゃんには、ほんと申し訳なかったわ」
「いえ……」
夏生が亡くなってすぐ、影彦は両親と一緒に都会の学校へと転校した。
「俺の方こそ、助けられなくて」
「なにゆうてんの。沢に落ちた人間助けるなんて、プロでも難しいんよ。かっちゃんが無事で良かった思てるよ」
しんみりとそう言われて、彼は夏生の両親に、嫌われていなかったことを知る。
夏祭りの日、一緒に神社に出かけた彼らは、一緒に帰ってくることはなかった。片方は戻らず、片方は村から出て行ったのだ。
夏生の時間が止まってしまったように、影彦の村での時間も止まっている。あの日から、ずっと。
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