30 / 37

四日目 ~祭ばやし~ ③

 通りすがる村人たちはみな笑いさざめき、楽し気で、寂れた小さな田舎の村は不思議なほど活気に満ちていた。だが半分くらいの村人は様々な表情の狐面を被っていて、はっきりとした表情は判らないのだが。 「おい、隆弘! 早よ来いよ!!」 「待ってよみつる!」  影彦の胸の辺りを、麦わら帽子を被った少年が通り過ぎた。  くるりと後ろを振り返った顔には狐のお面。その後を追いかける少年の顔にも揃いの面が着いていた。彼らは影彦に気付いたのか、少し顔を上げてこちらを見たものの、何も言わず二人で顔を見合わせる。影彦が声をかけあぐねている内に、麦わら帽子の少年が「行くで!」と声を掛け、はしゃぎながら揃って駆け去っていった。 「なぁ、夏生。あれは」 「ん?」  少年たちの走って行った方向を指さした影彦は、不思議そうに首を傾げる夏生に、「なんでもない」と首を振る。そういえば。と、思い出した。初盆だったな、と。  改めて見回せば、狐面の村人と、仮面のない村人はほぼ半々くらいだろうか。不自然なほど多いお面姿の村人は、みな『ご先祖さま』だ。影彦のそばにいる狐面の夏生もしかり。金魚すくいの屋台の主も、おみくじの売り場で座っている巫女たちの一人も。一昨日会合で見た梨本が射的のそばにいるのに気付き、彼の目にこの祭りはどう映っているのだろうかと、影彦はそんなことを思った。  くじを引いた後、とうもろこしを一緒に食べて。りんごあめ、金魚すくい、射的で二人して盛り上がる。いつもの二人の巡回コースだ。そしてその後も同じ。 「おい、影彦、言うたか」 「はい」  振り向くと、梨本が彼を見上げていた。

ともだちにシェアしよう!