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四日目 ~祭ばやし~ ④
ひょろりと背の高い影彦と、がっしりとした中肉中背の梨本は、一見対照的に見える。身長は影彦の方が高いが、貫禄は悔しいことに、彼が十年単位で努力しても追いつきそうにない。
「おまはんところのばぁさんやけどな。ちぃとおかしいで」
人差し指をこめかみに当てると、くるくると円を描いて見せる。
「どこがですか?」
「なんや、さっきからなんもない空中に向かって喋ったりとかな。気味悪いわ」
家にいるかと思ったら、祖母もここに来ているらしい。喋っているのはおそらく祖父にだろう。どうやら彼は、村の当番だから巡回に協力してはいるものの、過疎村の寂れたお祭りに、こうして参加するのは気が進まないらしい。思いがけず彼の祭りの感想が聞けたものの、彼の祖母に対する発言は、影彦にとってあまり気持ちのいいものではなかった。
それ言うんやったら、たぶん俺もですよ」
なぁ、と、隣に立つ夏生に声を掛ける。表情のない狐面は、特に何の色も映してはいないが、先日の仇を取ってやったような気になって、影彦は笑いながら夏生の手を引いて走り出した。後ろから梨本の呼び止める声が聞こえたが、そのまま鬱蒼と繁る藪の中へと飛び込む。
木々の絡み合う森の中は、そろそろ陽も落ちて薄暗くなってきているが、夏生の下げる提灯は不思議と明るく、ほのかに辺りを照らしていた。
いつの間にか先頭を行くのは夏生になっている。だが、どこに向かうのかは判っていた。かさりと、音の鳴る下生えを踏むと、緑の匂いが強くなる。虫や蛙の声に混ざって、さやさやと、静かに流れる水の音。やがて道が開け、眼下に水の流れる沢へと出た。
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