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四日目 ~祭ばやし~ ⑥

 解ってる。いくら呼んでも届かないって。ここにいる夏生は、死んでしまった時のまま、何度でも『あの日』を繰り返すのだ。夏生に聞こえるのは、あの時の影彦の声だけ。彼を拒絶した、あの時の影彦だけ。目の前の影彦がいくら叫んでも、彼には届かない。  数年前村に帰ってくるようになってから、何度も釈明しようとした。だが、この日この場所の夏生は、彼の言葉が届かない。そして、必ず彼らはここに来るのだ。あの日を繰り返すために。 「ごめん! 俺がお前の手を離したから。あの時、俺がお前を置いて帰ってしまったから……!!」  死者は未練など持たない。持つのは生きているものだけ。  なら、これは夏生の未練ではない。ましてや、夏生の母親のものでもない。だとしたら。  そうだ、認めなければならない。 「怖かったんだ。どうしていいか判らなかった。お前のことはすごい好きやったし、お前が俺のことを好きなんやったら、ずっと一緒にいてもらえるかもって思ったけど。そう思ったけど、俺なんかがお前を独占していいんやろうかとか、男同士はおかしいやろとか、でも断ったらもうお前と一緒におれなくなるんやろうかとか、色々考えてぐちゃぐちゃになったんや」  身体と顔が、燃えるように熱い。ぽろぽろと、大粒の涙が、彼の瞳からこぼれた。 「だから逃げたんや。まさか、あの後お前が沢に落ちるやなんて、思わんかった。なぁ!! なんで、なんで死んでもうたんや、夏生」  ぎゅぅと、掻き抱く身体はひぃやりとして、触れていると彼の体温が全部吸い取られてしまいそうなほどだ。影彦はそこまで一気にしゃべると、抱きしめている相手が、いつの間にか黙り込んでいたことに気付いた。 「影彦」  ぽつり。面の下から小さな声が聞こえた。

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