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四日目 ~祭ばやし~ ⑧

 その声を聞いたのは、転校先の高校、大学を卒業し、就職を機に一人暮らしをするために、部屋の片付けをしていた時のことだ。  幼馴染を喪い半狂乱になっていた息子を、両親は村から引き離すように都会へと引っ越した。自然の殆どない、環境の違う場所は、影彦の心にとても良い作用があったらしい。やがて彼は辛い記憶を封印し、少しずつ立ち直り始めていた。  今となれば誰の声だかは判らない。  小さな囁き声に惹かれるまま、彼は古いダンボールの奥にしまい込まれた、一冊のアルバムを見つけた。  ページをめくっているうちに気づいたのは、小さいころの写真。どの写真にも、必ず隣にいた幼馴染を見たとき、不意に記憶が揺り動かされたように、影彦は昔を思い出していた。  それはちょうど夏。まるで誰かが意図していたように、影彦は昔住んでいた村へと戻っていた。そしてそこで、彼に逢ったのだ。  そうだ、この村でなら、逢うことが出来るのだ。たとえ、ほんの束の間だったとしても。  その選択が間違っていたのか、影彦には解らない。自分の行動が正しいかどうかなんて、本当は自分が一番判らないのだ。  結局、影彦は夏生のもとへ行くことは出来なかった。  目を開けると泣きじゃくる母親と、父親、祖母がいた。あの時影彦の後を追った梨本が、崖から身を躍らせた影彦を見たらしい。彼は元自衛隊員で、学生時代は水泳の選手だったそうで、ひょろい影彦を助けるのはお手の物だったろう。 「馬鹿が。だから迷わすなゆうたやろが!!」  おかしい。自分は病人じゃなかったっけ。起き抜けに祖母の拳を久しぶりに喰らって、影彦の目の前が白くなる。頭を打ってるんだからと医者や看護師たちに引き離されて、あぁ、こっちに戻ってきたのだと実感した。どうやら彼は夏生のところへ行けなかったらしい。  そのまま彼は都会へと戻った。

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