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四日目 ~祭ばやし~ ⑨

 相変わらず五月蝿いひぐらしの声を聞きながら、影彦は砂利道を歩く。傾いた陽射しはまだ強く、道の両端にある田んぼは、青々とした稲穂をこちらへもたげている。見慣れた古びた橋も変わらずだ。陽射しも絶好調で、雨のひとつも降る気配はない。  また次の夏、彼は村へと戻ってきた。旅行鞄ひとつ、担いで。  時が止まったようなこの場所は、去年見たときと寸分変わらず、影彦を迎えるでもなくそこにあった。ただひとつ違っているのは橋のそば、麦わら帽子を被った、白い服の少年がそこにいないことだろうか。  みつるは、隆弘を迎えられたから、もう現れることはない。  少し寂しく思いながら、橋の欄干に手をかける。 「もう、一緒に落っこちるのはごめんだぞ」  不意に、後ろから声がした。 「それは残念だ」  影彦は振り向きざま両手を広げて、彼を抱きしめる。 「ただいま、夏生」 「ほんとにお前は未練がましいやつだな」 「あぁ、俺も自分がこんなに女々しいとは思わなかったよ」  呆れたような声が、耳元で聞こえた。くすくすとした笑みが含まれて、彼の機嫌が良いことを知る。

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