2 / 8
雨と傘 第2話
晴天が続いたある日――
買い出し途中に雨が降って来た。
荷物が濡れてはいけないと、急いで近くの建物の軒先に走りこんだ。
数日ぶりの雨だ。
あぁ、店にいたら彼が来たかもしれないのに……
せめて帰ってから降ってくれれば……
恨めしそうに空を見上げた時、目の前に傘がぬっと差しだされた。
「っ!?」
傘の持ち主を見て驚いた。
彼だ……
「これ、使ってください」
「え、でも……」
「今日はお店お休みなんですね」
彼が少し残念そうな顔をする。
「あっ、あの、今から帰るところで……帰ったら開けようと……」
店以外で彼を見るのは初めてだったので、動揺して言葉がうまくでてこない。
彼は、いつも店に来る時と同じような恰好をしていた。
「そうなんですか」
もしかして店に来てくれるつもりだったのだろうか……
「よければ、店まで一緒にどうですか?そうすれば、あなたも濡れずにすみますし……」
「すみません。せっかくですが今日はこれからまだ行かなければいけないところがあるので……それに、この雨はすぐに止みそうですし」
「え……」
「また雨の日に寄らせてもらいますね。傘はそれまで預かっててください」
彼はそう言って口元を綻ばせると、傘を押し付けて去って行った。
なんてことだ……
雨が降ったら店に来てくれると勝手に思い込んでいた。
平日の午前中なんだから、彼はどう考えても仕事中だ。
彼の都合など考えもしていなかった自分の言動が恥ずかしい……
だけど……
店以外で出会えたこと、普段の形式的なやり取り以外の会話ができたこと……
たったそれだけのことなのになぜか胸がドキドキして、彼の温もりが残る傘の柄をしばらく握りしめていた。
***
ともだちにシェアしよう!