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〇〇を待つ日々 第3話
どうやら今年は空梅雨らしい。
あれからまた雨の降らない日が続いた。
彼は……来ない。
どうしていつも雨の日なんだろう。
ジンクスみたいなものでもあるのだろうか。
雨の日以外にカフェに入ったら何か悪いことでもおこるとか?
彼はお客さんだ。
いつ来るかは彼次第。
「マスター、誰か待ってるの?」
「え?いえ、特に約束はしていませんが……そうですね、わたしは毎日お客様をお待ちしてますよ」
「はぐらかそうったってダメだよ~。最近のマスターは上の空でしょっちゅうドアの方見てため息を吐いてるじゃないか」
常連客に指摘されて気がついた。
そういえば、最近ずっと彼のことを考えている。
雨のことを考えている。
雨さえ降れば、彼は来る……
雨さえ……
雨が降ったからといって、彼が来るとは限らないのに……
「ここに来ると落ち着くんだよね~」
「ありがとうございます」
「コーヒーはおいしいし、マスターで目の保養もできるし」
「こんなので先生の目の保養になりますか?」
常連客のお世辞に苦笑しながら自分を指差す。
「なるなる。だから笑ってよマスター」
「はい!」
先代の味にはまだ追い付かないが、先代からの常連客や、この『先生』のように春海が後を継いでから新たに増えた常連客もいる。
雨の日にしか、それも来るかどうかわからないようなお客さんを待ち続けるよりも、目の前のお客さんを大切にしていかなければ……
大きく息を吸ってゆっくりと吐き出す。
「よし!」
気持ちを切り替えると、新しいコーヒーを入れた。
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