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彼の背中 第7話

 彼が来なくなってもうすぐ一ヶ月になる。  その間、雨が降らなかったわけじゃない。  やはり……彼はもう来てくれないのだろう。 「今度の台風はデカそうだなぁ……マスター、明日は店閉めたらどうだい。どうせ台風で誰も来ないだろうし」  常連客の『先生』が徐々に風の強くなってきた表を見ながらコーヒーを飲んだ。 「そうですね……」  翌日は朝から雨が降っていた。  台風の接近は昼過ぎらしいので、これからまだ荒れてきそうだ。  することがないので、とりあえず店に行く。  看板は出さずに、店内を大掃除することにした。    普段なかなかキレイにできないところまで磨き上げ、大掃除を終える頃にはもう外はすっかり暴風雨になっていた。   「あ、そういえば外に朝顔が出たままだ」  常連客からいただいた朝顔の鉢を出したままだったことを思い出し、急いで外に出た。  雨の中、何気なく大通りに目をやると、彼が通り過ぎて行くのが見えた。 「あっ……!」  気がついた時には走り出していた。  暴風雨の中、彼の背中を追いかける。 「待ってっ!!……村雨さんっ!!」  大声で呼びかけるが、叩きつけるような風雨の音にかき消されていく。  彼は傘をさしているので、傘に当たる雨音で余計に周りの音は聞き取りにくいのだろう。 「待ってっ……あっ!!」  彼を追って前ばかり見て走っていたので、水たまりに隠れていた段差につまづいて盛大に転んだ。  周りの人たちは、強くなる暴風雨にそれどころじゃないらしく、地面に座り込む春海を避けてどんどん通り過ぎていく。  わたしは一体何をしているんだろう……  さっきのだって、本当に村雨さんだったかわからない。  遠目で見ただけだし、もしかしたら違う人だったのかも……   「大丈夫ですか!?」  急に雨が止んだと思ったら、誰かが傘をさしかけてくれていた。  春海がいつまでも座り込んでいるので、見かねた誰かが声をかけてくれたのか。  早く立たなきゃ……   「大丈夫です……すみませ……」 「春海さん、ケガしましたか?具合悪いですか?」 「……村雨さん……!?」 「とりあえず、店に帰りましょう。このままじゃ風邪引きますよ」  彼はそう言うと、春海に自分の鞄を渡し春海を抱き上げようとした。 「えっ!?あの、大丈夫です!!歩けますから!!ちょっと転んだだけなので!」 「文句は後で聞きます。今はちょっと我慢してください」 「ちょっ!!えええっ!?」    春海の言葉を無視して抱き上げると、スタスタと歩き出した。  雨のせいか、周囲にはもうほとんど人影はなく、あったとしてもみんな傘を飛ばされないようにすることに精一杯で、誰も二人に関心を寄せるようなことはなかった。 ***

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