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第3話 作られた笑顔
咲がキーボードを叩く規則正しい音が社長室に響いてる。
咲を採用してから二週間。そこにいるだけで場が華やかになるし、仕事ぶりは超優秀。
ただ、やはり気になるのはその無表情ぶりだろうか。
「……なあ、志水」
「はい?」
咲がパソコンの画面から顔を上げ、目と目が合う。
その瞳はすごく綺麗で、同性の俺でも見惚れてしまう。
「おまえさ」
「なんでしょうか?」
「なんていうかさ、その、満面の笑みをいつも浮かべてくれとは言わないけど、せめて、もう少しにこやかになれないものかな」
「にこやか……ですか……?」
俺の注文に、咲は腕を組んで考え込んでしまう。
……そこまで真剣に悩まなきゃいけないことを俺は咲に命じてるのかな。
こっちの方こそそんなふうに悩みかけた頃、咲が腕組みを解いた。
「……こんな感じでよろしいでしょうか?椎名(しいな)社長」
咲は口角を上げ、微笑をその綺麗な顔に貼り付ける。
『笑顔』をマニュアル通りに浮かべたような表情である。
「…………うん。ありがとう」
無表情の人形から微笑みをたたえた人形に変わっただけのような気もするが、表面だけ見れば、その笑みは正に輝くばかりのものだから、まあ、いいか。
「あ、そうだ、それから志水」
「はい」
「今度の休み、おまえ空いてる?」
「特に予定は入っておりませんが」
「それじゃちょっと俺の実家につき合ってくれないか?」
「社長の実家ですか?」
元の無表情に戻った咲が小首を傾げる。
そんな何気ない仕草も優美である。
「うん。俺の両親が新しい秘書のおまえに会ってみたいって言うんだよ。せっかくの休みのところ悪いんだけど、当日は俺が車でおまえの自宅まで迎えに行くから、ちょこっと顔見せてやってくれないかな」
「かしこまりました」
咲は口元を綺麗な微笑みの形に変えた。
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