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第6話 実家にて2
俺がまじまじと咲のことを見つめていると、綺麗な笑顔を貼り付けたまま首を傾げる。
「何か? 社長」
「いや、別に」
無表情と作り笑顔。
そんなものでこれだけ人の心を惹きつける咲の人たらしぶりはすごい才能かもしれない。
「さあさあ、和希と志水くん、二人でイチャイチャしてないで、お昼ごはんの用意ができてるから、ダイニングへいらっしゃい」
母親は超ご機嫌で、そのオタクさをいかんなく発揮している。
「あのな、母さん、イチャイチャしてるとか言ったら、志水が引くだろ。そういうのは母さんの脳内のお花畑だけにしといてくれよ」
「いいじゃないの。綺麗な男の子二人が並んでいるのを見るのが、私の一番の楽しみなんだから。ねえ? 志水くん」
「私はともかく、社長は確かにとてもイケメンでいらっしゃいますね」
咲は母さんの主張に、どこか噛み合わない返答をしている。
超がつく美形だという自覚が咲にはないのだろうか?
ダイニングへ移動し、揃って昼食をとっているとき、また一つ咲の新しい面を知ることができた。
それは咲の趣味が将棋だということ。
もとは父親が無類の将棋好きだということから始まった話題だった。
今年の春で楽隠居を決めたのも、表向きは、「和希も三十五の誕生日を迎えたから、そろそろ社長としての荒波にもまれろ」とかなんとか言っていたが、本当のところは自分が好きなだけ将棋に打ち込みたいというのが一番の理由だということは俺も母親もお見通しだ。
父親は初対面の相手には必ず将棋が指せるかどうかを聞く癖がある。
咲にも例外なく聞いたのだが、意外にも答えはイエスだったのだ。
そうなると、父親はもう咲を放ってはおかない。
昼食もそこそこに切り上げ、咲を引きずるようにして奥の和室へと行ってしまった。
途中、母親に代わってお茶と菓子を持って俺が和室へと入ったときは、父親は劣勢だったのか眉間にしわを寄せ、なにやら呻いていたが、対する咲はいつもの無表情だった。
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