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第7話 実家にて3

 二時間ほどが経ち、いい加減待つのも疲れたとき、二人は和室からリビングへと戻って来た。 「いやー、咲くんは若いのに強いよー。久しぶりに手ごたえがある勝負ができた」  父親が『咲くん』呼びに変わっていることに驚く。  ……俺でさえ、志水としか呼べないでいるというのに。父さんの奴。  なぜか父親に先を越されてしまったような悔しさを覚えてしまう。 「ところで咲くん。君は今、幾つなんだい?」 「二十三歳です」 「二十三か。……なあ、咲くん。私は十歳くらいの君に会った記憶があるんだが、君は憶えてないかな?」  突然父親が訳の分からないことを咲に聞いた。  咲は形のいい唇に、作り物の微笑みをたたえながら、かぶりを振る。 「いえ。私は」  それでも父親は咲の顔をしばらく見つめていたが、やがて苦笑する。 「私の勘違いだったようだね。変なことを聞いて悪かったね、咲くん」 「いえ」  咲は微笑みを更に深めてみせる。  俺は咲を見つめ続けていたが、彼の笑顔からはどんな感情も読み取れなかった。

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