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第9話 和希の部屋
「その辺に適当に座って、志水。今、飲み物用意するから。ビールでいい?」
「お気遣いなさらないでください、社長」
リビングのソファへ座るように咲に勧めると、俺は冷蔵庫から咲のためにはビールを、自分用にはまだ咲を送って行かなきゃいけないのでノンアルコールビールを取り出し、貰い物のチーズを皿に盛ってテーブルへ並べる。
「こんなものしかないけど」
「ありがとうございます」
咲の前のソファへ腰かけ、とりあえず乾杯をする。
今まで咲と二人で酒を飲んだことはない。
咲が入社したときに歓迎会のようなものをしたが、そのときは、彼はもっぱらウーロン茶だけを飲んでいたっけ。
「本当はお酒飲めるんだな、志水って」
また一つ咲の新しい面を知ることができた。
「え?」
「おまえ、歓迎会のとき、酒は飲めないって言ってなかった?」
「……すいません。ああいう場は苦手なもので、つい」
「志水って酒に酔うとどうなるんだ?」
「どうって……普通ですけれど」
普通……咲の言う普通とはどういうものなんだろうか?
笑い上戸になったり泣き上戸になったり……しないか、こいつは。
咲が酒に酔ってる姿なんて想像できない。
しかし、咲は酒にすごく弱かった。ビールをコップに半分ほど飲んだだけで酔いが回ったみたいだ。
表情はいつもの鉄壁の無表情ながら、透けるような色白の肌が真っ赤に染まり、ふらふらと足元がおぼつかない様子だ。
「大丈夫か? 志水。今夜泊って行ってもいいんだぞ。使ってない部屋も布団もあるし」
「いえ。大丈夫です。タクシーで帰りますから」
「送ってくよ。今日は俺の都合で呼び出してつき合わせたわけだし」
「でも、もう時間も遅いですし。社長もお疲れでしょうから、やはりタクシーで――」
「危ない!」
咲が歩き出そうとしてふらついたので、とっさに手を差し伸べて彼の体を支える。
そのとき咲の柔らかな髪が俺の頬へ触れ、追いかけるように、いい香りが漂う。
目の前には彼のきめ細やかな白いうなじ。
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