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第12話 謎
咲がマンションの中へと入って行ったのを見届けてから、俺は自宅マンションへ帰って来た。
冷蔵庫から今度こそビールを取り出し、リビングのソファへ体を投げ出す。
ビールを一気に半分ほど飲み干すと、シャツのポケットからスマホを取り出し、父親に電話をかける。
スリーコール目で父親の不機嫌そうな声が電話口に出た。
『……なんだ? 和希。こんな夜遅くに』
「もう寝てた?」
リビングにかかる時計を見ると深夜一時を回っている。
『寝てはいないが、父さんは今忙しいんだ。昼間、咲くんと対局して敗れた手をだな……』
どうやら父親は将棋の盤に向かっているらしい。
「その咲のことで聞きたいことがあるんだよ。父さん、咲に昔会ったことあるようなこと言ってただろ? 咲は否定してたけど。本当のところはどうなんだ?」
俺はずっとそのことが気にかかっていた。
『ああ。咲くんがまだ十歳くらいの頃に一度会ったことがある。昔からものすごくかわいらしかったし、今でもすごく面影が残ってるからすぐに思い出したよ。咲くんの方が否定したのはただ単に憶えていなかっただけかもしれないけど……』
父親の言い方には何か含みがあった。
「本当は憶えていたけど忘れたふりをしていたとか?」
『うーん。そうだな。あんまり昔のことは聞かれたくないんじゃないかなって思ってな』
「なんで?」
『咲くんと会ったのは確かなにかのパーティで。あの子は志水グループの嫡子だった』
「は? 嘘だろ? なんで志水グループの跡取り息子が俺の秘書なんかやってんだよ?」
『いろいろ事情があるんだろうよ。だから私もあえてあれ以上突っ込まなかったんだ』
「…………」
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