18 / 65
第18話 その男2
「ふうん……イケメンやり手の椎名社長ね。噂には聞いてたけど、ずいぶん若いんでびっくりしたよ。私は志水グループの社長で志水健志郎(けんしろう)。咲は私の弟みたいな存在でもあるので、少々心配でね」
「心配には及びません」
二人とも微笑みを唇にたたえ話をしていたので、周りには穏やかな雰囲気に映っていたかもしれないが、実際は険悪だった。
いつでもどんなときでも落ち着いていて、その表情を大きく変えはしない。
見せてくれる笑顔は明らかな作り笑顔と分かるもので……そんな咲が今、志水健志郎の前で大きく表情を崩した。それもとても苦し気に。
咲を苦しめる男……それだけで俺にとってこいつは敵認定される。
「……咲、もう帰るぞ」
「え? あ、はい、社長」
俺はわざと慇懃に健志郎に礼をしてみせ、咲の妹には軽く会釈をし、会場をあとにしようとした。
「咲! 帰って来たくなったら、いつでも帰って来いよ」
去っていく俺たちの背中を追いかけて来る健志郎の無遠慮な言葉と声。
咲は唇を噛みしめてうつむいている。相変わらず顔色は悪い。
「大丈夫か? 咲」
「ええ。平気です。それより社長、自叙伝出版の挨拶聞いて行かなくてよろしいんですか? ……私なら平気ですから」
「バカ。変な遠慮してんじゃねーよ」
「でも……」
「俺が嫌なんだ。あの健志郎っていうやつ、なんか気に食わねー」
「社長……」
発せられた咲の声は弱弱しく、よく見ると、華奢な体が小さく震えている。
少しでも咲の震えをとめたくて俺は彼の薄い肩を抱き寄せた。
ともだちにシェアしよう!