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第20話 再び和希の部屋

 Rホテルからだと咲のマンションの方が近い。  それを知っていて俺はわざと咲のマンションの前を通り越した。  咲はそれを知っても特に文句は言わない。  秘書として社長より先に自宅へ帰ることは良しとしないという思いがあるのかもしれない。  でも俺が咲のマンションをすっ飛ばしたのは、勿論そんなことが理由ではない。 「咲、今夜は俺の部屋に泊まるんだ」  俺のマンションの地下駐車場に着いた瞬間、そう咲に命令した。 「は?」 「まだ顔色も悪いし、こんな状態のおまえを独りになんかできない」 「……もう大丈夫です」 「だめ。これは社長命令だから。……それに」  「社長?」 「それに……おまえに話があるんだ」 「話、ですか?」 「ああ」 「なんでしょうか?」 「……部屋に行ってから言う」  束の間の躊躇のあとそう告げると、 「かしこまりました」  咲は静かにうなずいた。

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