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第22話 キス、そして
咲は一瞬だけ驚愕の表情を見せたが、すぐにまた元の作り笑顔に戻ってしまい、
「……私も社長のこと尊敬しています」
そんな毒にも薬にもならない答えでごまかそうとする。
俺はタバコをソーサーに押し付けて消し、声を振り絞った。
「咲、そういう意味で言ってるんじゃないって分かってるんだろ。俺は、おまえに恋してるんだ」
健志郎という男の登場により、俺は自分の気持ちをはっきりと認識した。
あの男と咲の間には俺の知らない何かがあって、俺の知らない咲をあの男は知っている。
そう考えただけで苦しいほど嫉妬してしまう。
なのに。
「……それは社長の錯覚です」
「錯覚?」
「ええ。そうです。だって私たちは同性同士でしょう?」
「同性同士でも好きになること、あるだろ」
「それは本当にごく少数で、少なくとも社長の気持ちは錯覚にすぎません」
無表情に戻った咲は静かな口調で断言すると、俺から顔を背ける。
「咲、こっちを見ろ」
「…………」
「咲……!」
俺はソファから身を乗り出すと、咲の細い顎をつかんでこちらを向かせた。
「咲、今、誰のことを考えてる?」
咲が言いたくないんだったら、聞かないとさっきは言ったくせに、理不尽だと自分自身分かっていながらも結局は聞かずにはいられなかった。
「社長……離してください……」
弱弱しい声には耳を貸さず、片方の手は咲の華奢な顎をつかんだまま、もう片方の手で滑らかな頬に触れる。
「社長……んっ……」
そのまま咲の唇に自分の唇を強く押し付けた。
「……っ……やめてくださいっ……社長っ……」
咲は俺を突き飛ばすと、ソファから立ち上がり、部屋の隅へと逃げてしまった。
「社長、冗談が過ぎます」
「冗談? 冗談で男相手にキスなんかできない。少なくとも俺は」
部屋の隅にいる咲に俺は近づき、逃げられないように両手で彼の体を囲ってしまう。
「社長……」
「咲……おまえ、あの健志郎とか言う野郎のこと好きなのか?」
いきなり核心をついてやったが、咲の仮面は手強くて、薄っすらと作り笑いを浮かべながら答える。
「なにをおっしゃるのですか? 社長。あの人は妹の連れ合いですよ」
俺は咲の顔のすぐ横の壁を力任せに叩いた。
「咲、おまえの様子見てたら嫌でも分かったよ。おまえとあの男はどういう関係なんだ?」
「そんなもの何もありません」
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