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第25話 片思いのままのセックス
静かな部屋に響く咲の荒い息遣いと達したあとのどこか虚ろな表情。
それらを知るのは俺が初めてではない。
そのことに激しい嫉妬を覚え、同時に上司という立場を利用して咲を組み敷いたような罪悪感をも覚える。
「咲……大丈夫か……?」
くったりと床に横たわる咲に声をかけると、大きな瞳がジッと見つめ返して来て。
次の瞬間には抱きついて来た。
「社長……」
酷く掠れた咲の声。
「どうした? 咲」
抱きついて来る咲の背中をやさしく上下に撫でながら問うと、
「俺……今の時期、大嫌いなんです」
腕の中で小さく答える。
「うん……」
「アジサイの咲く時期になると思い出してしまうから」
何を? と聞く前に咲が言葉を続けた。
「だから、全てを忘れさせてください……社長……」
すがりつく咲の腕の力が強くなる。
俺は咲の体をすくうようにして抱き上げた。
咲は想像していたよりもずっと軽くて、少し力を入れたら壊してしまいそうだ。
腕を通しただけのYシャツごと咲を包み込み、奥にある寝室のベッドへ降ろした。
「咲……」
そっと口づけを交わして、俺たちは偽りの……いや、俺は咲のことが好きだから一方的な、と言った方が正しいか……交わりへと溺れて行った。
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