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第34話 溜息
体をきれいにしてやり、乱れまくっていた衣服を整えてやると、咲はもう何事もなかったかのように仕事を再開し始める。
俺はこの一週間で吸う機会が増えてしまったタバコをくわえながら、咲がパソコンに向かう姿を見つめていた。
咲にとって俺はいったいなんなんだろう……。
突き詰めて考えると自分がどんどん惨めで情けなく感じ、思わず紫煙とともに溜息をつくと、咲がパソコン画面から顔を上げる。
「社長、……コーヒーでもお入れしましょうか?」
「……ああ。頼むよ」
「かしこまりました」
咲は唇を綺麗な笑みの形にすると、部屋を出て行った。
部屋に一人残った俺は窓際により、降りしきる雨を見つめる。
今年は梅雨が長く中々明けない。
「梅雨もアジサイの花も苦手、か……」
そう言えばあいつの憂い顔を初めて見たとき、紫のアジサイが咲いてたっけ。
咲の悲しそうな顔が脳裏に浮かび、酷く辛くなる。
再び深い溜息をつき、デスクに戻ると、俺は自分のパソコンを立ち上げた。
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