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第36話 対元恋人2
「でもさ、本当にみっともないのはあんたの方じゃないの? 志水社長。こんなところまで咲を追いかけて来て、これじゃストーカーと変わらない」
「椎名社長、これは志水グループ内の話なんで、部外者は口を出さないでくれないかな」
「咲は、今は俺の秘書だ」
女性の目から見たらダンディだとかなんとか言われそうな整った顔立ちをした四十男を俺は鋭く睨みつけた。
健志郎はひるむことなく睨み返して来ると、
「椎名社長。悪いけど咲は返してもらうよ。お義父さんもお義母さんも咲に帰って来てもらいたいって言ってるんだ。咲、わがまま言わないで志水の家へ帰るんだ。秘書なんかじゃなく、もっと上のポジションが待ってるから」
苛立ちが混ざった声で俺の後ろにいる咲に言う。
俺のスーツのジャケットを握りしめている咲の手がカタカタと震え始めている。
「……咲、大丈夫だから。気分が悪いなら車の中に入ってろ」
俺は震える咲の華奢な手の上から自分の手を重ねた。
咲が少しだけ笑顔を見せる。作り笑顔ではない素顔の微笑。
すると突然健志郎が気色ばんで叫んだ。
「俺の咲に触るな!!」
「は? なに言ってるんだ? あんた」
訳が分からない。
自分が捨てた相手を『俺のもの』呼ばわりする神経がマジで理解不能だった。
「あんた、自分から咲に別れを切り出しておいて、今更なんなんだよ?」
「俺は咲に別れを切り出した覚えはない」
「何言って……?」
「俺は今でも咲のことを愛してるんだ」
俺の後ろで咲が大きく体を震わせた。
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