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第38話 少しずつ……
咲はきっとすごく真っ直ぐなんだろう。
少年時代の恋を……酷い形で裏切られたというのに……忘れられないで、引きずってしまうほど一途で真っ直ぐで……。
「あいつの方も今でもおまえのことが好きだって言ってたけど……」
「…………」
俺の言葉に咲は何も答えなかった。
ザァッと大粒の雨が車の窓を叩く。
本当に今年の梅雨はいったいいつになったら明けるんだろうか。
打ち付けては消えていく雨粒はやはり人魚姫があぶくになって消えたことを連想させ、そのまま咲と重なる。
「……消えてしまうなよ、咲」
「……社長?」
ようやく少し落ち着きを取り戻した咲が首を傾げてこちらを見やる。
「なあ、咲」
「え?」
「今度の休み、土曜日でも日曜日でもいい。また実家の方へ来てくれないか?」
俺の誘いに、咲は素の微笑みで応じてくれた。
咲が本当の笑みを見せてくれると俺の胸は幸せで満たされる。
少しずつだけれども咲は俺に心を開いてくれている……。
咲の心がいまだ健志郎にあるという現実の中、そのことだけが俺の救いだった。
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