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第42話 人魚姫のラスト
やがて日が暮れて来て、徐々にアジサイの色の判別もつかなくなって来た頃、雨が降ってきた。
「また雨か。昼間は晴れてたのにな。本当今年の梅雨はしつこい」
「そうですね……」
咲が小さな声で答え、腕の中から抜け出そうとするのを抑え込んで、より強く抱きしめる。
「社長?」
雨がだんだん強くなり、窓に大粒の雨粒が打ち付けては消えていくのを見ながら、俺は言葉を重ねた。
「なあ、咲、おまえ人魚姫のラストって知ってる?」
「は? 童話の、ですか?」
「そう」
俺が突然突拍子もないことを言い出したので、さすがの咲も無表情の仮面を落とし、ぽかんとした顔をしている。
「……確か、海のあぶくになって消えてしまうのではなかったでしょうか」
「そうだよ。王子を殺すことができないで、結局は海のあぶくになってしまう……俺さ、こんなふうに雨粒が消えていくのを見ていると、なぜか人魚姫がなったあぶくを思い出すんだ。そして咲、人魚姫の儚さとおまえが時々重なって怖くなる。……おまえがあぶくのように消えてしまいそうで」
「…………」
俺の言葉に咲は返事をしなかった。
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